脳の細胞は大きくわけると2つのタイプがあります。「ニューロン」と「グリア細胞」です。
この2つは、特徴やエネルギー代謝が異なります。
「ニューロン(別名:神経細胞)」とは、思考する細胞です。
一方「グリア細胞(別名:神経膠細胞)」は、「ニューロン」の補助役で、思考しない細胞です。
- ニューロン・・・思考する
- グリア細胞・・・思考しない、ニューロンの補助
この2つの細胞は数でいったら、「グリア細胞」が圧倒的に多いです。その数、「ニューロン」の十倍~数十倍です。
というわけで、この2つの細胞がどのようにしてエネルギー代謝を行なっているのか、また、脳にはブドウ糖がどのくらい必要なのか詳しく解説していきます。
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エネルギー源が違う「ニューロン」と「グリア細胞」
いきなりですが、結論です。
思考を司る「ニューロン」のエネルギー源は、「ケトン体」と、グリア細胞のエネルギー代謝で生じた「乳酸」です。
一方、思考を司らない「グリア細胞」のエネルギー源は、「ブドウ糖」になります。
- 「ニューロン」・・・ケトン体、乳酸
- 「グリア細胞」・・・ブドウ糖
この事実だけを見たら、「脳細胞の大多数を占めるグリア細胞のエネルギー源がブドウ糖だから、脳のエネルギー源はブドウ糖と言えるな」・・・と考えられなくもないです。
しかし、「思考する細胞」と「思考しない細胞」では、どちらが脳と言えるのか・・・と考えたら、やはり思考する方です。
例えば、アシスタントの助けがないと作業が完了できなかったとしても、アシスタントの数が多かったとしても、漫画の作者(作品の脳)は、アシスタントではなく「漫画家」です。
アシスタントは漫画の作者、漫画の顔ではありません。
同じように、「グリア細胞」の助けが必要であっても、脳の主役は、やはり思考する「ニューロン」だと言えます。
そのように考えると、思考する「ニューロン」のエネルギー源はブドウ糖ではないのですから、やはり「脳のエネルギー源はブドウ糖だ」というのは、誤解を与える意見であると言わざるを得ません。
ここから、「ニューロン」と「グリア細胞」の違いについて説明します。
ニューロンの特徴
まずは「ニューロン(神経細胞)」の簡単な紹介をします。
放射線状に広がった突起を「樹状突起 じゅじょうとっき」といって、情報の入力部分になります。
そして、長く伸びた軸の先端が出力部分になります。
この細胞がいくつも連続して情報のバケツリレーをしているというわけです。
このような感じで。
情報の流れは、
「樹状突起」→「軸索」→「軸索の末端」 → 「隣のニューロン」 ・・・の連続です。
そして、「ニューロン」と「ニューロン」の連結部分を「シナプス」と言います。
「シナプス」は繋がっていません。
電気信号が先端までくると、そこから「神経伝達物質」という化学物質が分泌されて、次の「ニューロン」に伝わる仕組みになっています。
特徴を把握したので、次は「ニューロン」のエネルギー代謝に焦点を当てます。
ニューロンのエネルギー代謝
「ニューロン」は、ミトコンドリアの多い細胞です。
ミトコンドリアとは細胞内にある発電所のようなものです。
ミトコンドリアでは「クエン酸回路」、そして「電子伝達系」という反応によってエネルギー物質「ATP」を作ります。
エネルギーの材料は、脂肪酸から生成された「ケトン体」や、「グリア細胞で発生した乳酸」になります。
「ニューロン」には、「ブドウ糖」を材料とするエネルギー代謝である「解糖系」はほぼないそうです。
ミトコンドリアでの代謝に依存しているので、ニューロンのエネルギー代謝は「高エネルギー」ということになります。
「ニューロン」のように、ミトコンドリア主体の細胞は、生涯にわたって細胞分裂をしないのが特徴です。
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グリア細胞の特徴(中枢神経系)
神経には「中枢神経系(脳と脊髄からなる神経)」と、「末梢神経系(脳と脊髄以外の神経)」があります。
で、中枢神経に存在する「グリア細胞」は4種類あるのですが、それぞれ、どんな細胞なのか簡単に紹介します。
上衣細胞
まずは「上衣細胞 じょういさいぼう」です。
この細胞は、脳室の壁を構成しています。
アストロサイト
次は「アストロサイト」です。
この「アストロサイト」の機能は複数あります。近年、研究が進んで新たな機能が発見されているようですが、メインの機能がこちらです。
- 構造面でニューロンのネットワークを支える
- 物質輸送を介し、アストロサイト周辺の条件を調節する
- 毛細血管の周囲を取り囲んで「血液脳関門 」を形成する
↑このうちの、「血液脳関門 けつえきのうかんもん」について説明します。
通常の毛細血管の「内皮細胞 ないひさいぼう」には隙間があるので、様々な物質が血管の内外を自由に出入りできます。
しかし、脳の毛細血管の「内皮細胞」はちょっと違っていて、有害物質が入らないように関所のような機能があります。それが「血液脳関門」で、英語名は響きがよく「Blood-Brain Barrier ブラッド-ブレインバリア」と言います。
「アストロサイト」の足の突起は、BBBの外側を構成しています。こんな感じで。
この関門を通過できるのは「酸素」、「ブドウ糖」、「ケトン体」、「一部のアミノ酸やビタミン」、「アルコール」等、「分子量が小さい物質」や、「脂溶性で細胞膜を通過できる物質」です。
以前、「水素水を飲んだら頭痛が消えた」という話をしたことがあります。「水素」は物質の中で一番小さい分子なので、「血液脳関門」を通過することができるので、それで効果があったのでしょう。
ミクログリア
次は「ミクログリア」です。
「ミクログリア」は小型の細胞で、ニューロン、アストロサイト、血管内皮細胞などに接しています。
中枢系の免疫が担当です。また、神経細胞が死んだ時に死骸を食べて処理する機能もあります。
オリゴデンドロサイト
次は「オリゴデンドロサイト」です。
「オリゴデンドロサイト」は、「ニューロン」の軸索に巻きついていて、電気信号を効率よく伝える為の「絶縁体(※電気を伝えない物体)」の役割を果たしています。
グリア細胞の特徴(末梢神経系)
ここまで、中枢神経系の4種類の「グリア細胞」を紹介しましたが、補足で、末梢神経系の「グリア細胞」も紹介しておきます。
シュワン細胞
「シュワン細胞」は、軸索に巻きついています。
衛星細胞
「衛星細胞」というのもあります。
では、ここからは「グリア細胞」のエネルギー代謝の説明に入っていきます。
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グリア細胞のエネルギー代謝
思考をしない「グリア細胞」は、エネルギー産生の99%を「解糖系」に依存しています(※つまり、エネルギー源をブドウ糖に依存しているということです)。ミトコンドリアに依存している「ニューロン」と逆ですね。
「グリア細胞」に必要なブドウ糖は、毎時3~4gです。
「ニューロン」と「グリア細胞」の違いをまとめます。
- 「ニューロン」・・・ケトン体、乳酸(ミトコンドリア)
- 「グリア細胞」・・・ブドウ糖(解糖系)
ここで注目していただきたいのが、ブドウ糖(グルコース)をエネルギー源とする解糖系に依存する「グリア細胞」は、乳酸が発生するということです。
グリア細胞の解糖系で生じた乳酸
「ニューロン」のエネルギー源は、「ケトン体」と「解糖系で発生した乳酸」でした。ケトン体が足りなくなった時に、乳酸をエネルギー源として利用するのです。
「グリア細胞」で発生した乳酸は、「乳酸トランスポーター」によって「ニューロン」に運ばれます。そして、乳酸はピルビン酸に変換され、酸素と共にミトコンドリアに取り込まれてエネルギーを産生します。
グリア細胞で発生した乳酸
↓
乳酸トランスポーターがニューロンに運ぶ
↓
乳酸はピルビン酸に変換される
↓
ピルビン酸はミトコンドリアに取り込まれる
↓
エネルギー産生
「ブドウ糖(グルコース)の代謝によって生じた乳酸をエネルギー源にしているのだから、「ニューロン」もブドウ糖が必要じゃないか」・・・と、思われた人もいるかもしれません。
しかし、これだけで「糖質の摂取は必要なんだ」と結論付けるのは早いです。
「グリア細胞」のブドウ糖も、「糖新生(肝臓や腎臓で、糖質以外の材料から糖質を作るシステム)」でまかなうことができるからです。
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グリア細胞に必要な糖質量
体は肝臓や腎臓で、糖質以外の材料からブドウ糖(グルコース)を合成することができます。
どのぐらいの量が合成できるのかというと、毎時6g~10g(小さじ1~2)です。
『Cafe すてきに活ききる 旬(ときめき)亭 糖新生、低血糖 萩原敦』より引用
飢餓時だけに「糖新生」が、特別に起きるわけではない。
わかりやすく言えば、糖質を食って血糖値が上昇している時は、糖新生は抑制されるが、それ以外の空腹時や睡眠時は、肝臓と腎臓でグルコースを毎時6~10g程度、血液中に24時間供給している。
もし、あなたがしっかりとした糖質制限をしているなら、食事中も食後も糖新生は継続しているのである。
脳のグリア細胞の解糖系では、過酷な頭脳労働時は毎時4gぼーっとしている時は、2~3g、睡眠中は2g程度のグルコースの消費がある。
赤血球は、安静時(事務仕事程度)では、毎時2g程度消費されている。
血糖値の標準値を100とすると、体重50キロのヒトで、血中に4gのグルコース量で飽和していることになる。
この初期血糖値の4gと糖新生による追加グルコース6~10g(中間値8をとる)を加算すると、4+8=12 12-(4+2)=6gということで、単純計算でも、血糖値が相当、上昇することになる。
これを抑制するのが、持続的に分泌されている「インスリン基礎分泌」である。
はっきり言って、「糖新生」のグルコース合成の量と「インスリン基礎分泌」の量の均衡が、空腹時血糖値や睡眠時の血糖値を、定めているのである。
したがって、生涯に渡って、糖質ゼロで、食生活を営んでも、糖新生とインスリン基礎分泌の均衡が保たれれば、低血糖にも高血糖にもならないのであり、血糖値の恒常性を完全に維持できるのである。
グリア細胞や赤血球には(ブドウ糖)グルコースが必要ですが、食事から摂らなくても十分足りることがお分かりいただけると思います。
- 基礎血糖(血液4~5リットルに対し、4~5g)
- 絶食時、糖質制限時、糖新生で合成されるグルコース(毎時6~8g)
- 脳のグリア細胞のグルコース消費量(毎時2~4g)
- 赤血球のグルコース消費量(毎時2g程度)
消費の量よりも、糖新生で作られる量の方が多いのです。
以前、糖新生まできちんと説明せず、「グリア細胞はケトン体が利用できないから砂糖を摂った方が良い」・・・という意見を見たので油断なりません。
一応、糖質を過剰に摂る事で、脳にどんな影響があるのか紹介しておきます。
脳腫瘍の原因
糖新生で必要な糖質量がまかなえるということは既に説明しました。では、「脳にはブドウ糖が必要である」を真に受けて糖質を食べるとどうなるか、リスクについてお話します。
注意すべきなのは、「乳酸の蓄積」と「糖化」です。
乳酸を処理するシステムは体に備わっていますが、過剰になれば、やはり、どの細胞も同じ末路を辿ります。
詳しくは以下の癌の記事で説明したのですが、
【注意】癌の本質を理解していないと症状が悪化する治療法を選択します
人間の血液は、pH7.35~7.45に保たれているのが正常です。
数値が小さくなると酸性になるのですが、pH7.3以下になると機能低下になり、pH7.1以下になると死の危険があります。
で、問題の「乳酸」ですが、酸とつくように pH5 程度の酸性物質です。これが蓄積すると、血液のpHが酸性に傾いていきます。それによってミトコンドリアが機能不全になり、場合によっては細胞が癌化します。
癌細胞は正常細胞の何倍もブドウ糖を取り込む細胞です。従って、癌は酸性に傾いた体を救うために過剰な糖(乳酸)を処理していると考えられます。
それは脳の細胞も同じことです。
糖質の過剰供給で乳酸が発生し、「グリア細胞」が癌化したのが脳腫瘍です。
解糖系がほぼなく乳酸が発生しない「ニューロン」は癌化しません。
また、「ニューロン」はほとんど細胞分裂しませんが、「グリア細胞」には分裂、増殖能力があります。
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アルツハイマーと認知症
「乳酸」の蓄積も体に不具合をもたらしますが、「糖化」の症状もあなどれません。
「糖化反応」とは、「余った糖」と「体のタンパク質」が結びついて体温で暖められ、タンパク質が変性する現象のことです。それによって生じた物質が「AGE/AGEs」です。
「健常な老人」と「アルツハイマー病の患者」の前頭葉を比べると、アルツハイマー病の患者には3倍以上のAGEsが蓄積しているそうです。
このAGEsは、周囲の細胞を攻撃する性質があります。従って、蓄積量が3倍というのはキツイです。
ちなみに、アルツハイマー病は、「3型の糖尿病」と言われています。
また、「脳血管性認知症」の原因も糖化が関係しています。
ニューロンの軸索は、「絶縁体」の役目をするカバーで覆われています。「オリゴデンドロサイト」や「シュワン細胞」です。これらを「髄鞘 ずいしょう」、「ミエリン鞘」と言うのですが、認知症の患者さんはこれが薄くなっているそうです。
『Wikipedia 髄鞘』より引用
神経科学において髄鞘 (ずいしょう、myelin sheath) は、脊椎動物の多くのニューロンの軸索の周りに存在する絶縁性のリン脂質の層を指す。 ミエリン鞘とも言う。
コレステロールの豊富な絶縁性の髄鞘で軸索が覆われることにより神経パルスの電導を高速にする機能がある。
髄鞘はグリア細胞の一種であるシュワン細胞とオリゴデンドロサイト (乏突起または稀突起グリア細胞、en:oligodendrocyte) からなっている。 シュワン細胞は末梢神経系の神経に髄鞘を形成し、一方オリゴデンドロサイトは中枢神経系の神経での髄鞘を形成している。
髄鞘が薄くなる原因は、「動脈硬化による血流不足で、酸素と栄養が十分に届かないこと」、「ミエリン鞘の糖化」が考えられています。
脳とブドウ糖
「脳のエネルギー源はブドウ糖」・・・というお決まりのセリフは、情報を小出しにしていて肝心なところが抜け落ちているので、フェアではありません。
正しくは「脳の「思考をしないグリア細胞」は、エネルギー源をブドウ糖に依存しているが、そのブドウ糖は糖新生で供給できる」です。
糖質の過剰摂取はリスクがあるので、忘れないようにして下さい。
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