今回は「保険制度のデメリット」と、それによって根管治療にどう影響するのか・・・についてお話します。
保険制度は良い面もありますが、歯科の場合は、デメリットが強いようです。
前回、「保険診療の歯科医院で利益を出すには、一日30人の患者を診なければならない」という話を紹介しました。
その場合、患者一人あたりにかけられる時間は15分でした。
で、なぜ30人でないとダメなのか・・・ですが、その根拠は以下になります。
『歯医者の99%は手抜きをする ダメな歯医者の見抜き方 いい歯医者の見分け方/著者・長尾周格』より引用
振り返って、なぜ15分しか治療時間をかけられないかと言うと、一日あたり30人の患者を治療しなければ、歯科医院が利益を出すことができないということが原因なのです。
では、なぜ一日あたり30人の患者を治療しなければならないかというと、それは日本の歯科の保険診療報酬が、きわめて低いということに行き着くのです。
日本の歯科治療費は、二〇〇五~二〇〇六年時点で既にOECD(経済協力開発機構)加盟先進国平均の 1/6 ~ 1/8 、アメリカの専門医の 1/12 ~ 1/20 という、非常に安い金額に抑えられており、現在ではOECD加盟先進国平均の 1/10 、アメリカの専門医の 1/20 ~ 1/30 ほどでしかありません。
(24p~25p)
「安く医療が受けられる」という点では、確かに日本の保険制度は優れています。ですが、より質の高い治療を望む場合は、どうなのでしょう・・・。
こんな事を言うと「保険外診療に行け」と言われそうですが、そこまでしなくとも、せめて眼科とか他の科並に診療報酬を上げてあげれば良いと思うのです。
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経営悪化の本当の理由
「ゼイタクの為の質」を保険でどうにかしろとは言いません。
ですが、「安全の質」にはこだわって欲しいです。
(根管治療のように)手を抜けば再治療のリスクが高くなる治療の場合、もう少し質の高い医療を受けられるようにしてもらいたいものです。
長尾周格氏によると、日本の歯科医院の経営悪化は、歯科医院の数が増えたからではないそうです。
ネットでも「日本の歯医者の数はコンビニより多い」と揶揄されていますので、多くの人が歯科医院の数は多すぎると思っているのではないでしょうか。
ですが実際は、人口10万人あたりの歯医者数を見ると、日本は先進諸外国と比較すると、少ない部類なのだそうです。
歯科医院の経営悪化は、歯医者の数が増えたのが問題なのではなく、低すぎる診療報酬に原因があります。
お会計をする時「これでどうやってやっていくんだろう」と心配になるレベルです。
「コンビニより多い」と言って問題の本質をズラしておけば、「診療報酬が低い」という問題点を改善しなくて済みます。
冷静に考えたら、歯の治療はとても細かい作業です。
単純な袋詰めの作業とは違いますから、むしろ他の科よりも、「一人に時間をかけなければならない科」だと思います。
ハッキリ言って、30人どころか、20人でも多いくらいです。
よく「患者が減った」と言いますが、昔の人数が異常なのです。
私は緑内障の為、検査で眼科にも行きますが、手術でもしない限り、医師の繊細な処置なんてありません。検査も看護士さんですし...。
眼科医にやってもらった処置で私が唯一記憶に残っているのは、「目の裏側に入った小さいホコリ」を取ってもらった事くらいです。
「医師に手を掛けてもらった感」は眼科等他の科よりも、歯科の方が上です。
それなのに受付で払うお金が、時に「遠足のおやつ代」並みに安い事に気付いて下さい。
そもそも保険の診療報酬がOECD加盟先進国の平均歯科治療費のほぼ1/10だという時点で、普通の経営努力だけで成り立たないのは当然です。
(28p)
私はこれまで、患者側の事しか考えていなかったので、「安ければよい」と思っていましたが、保険診療を行なっている歯科医院の立場を考えると気の毒でなりません。
再治療が必要になるような治療しかできないのなら、抜歯のリスクもあります。インプラントにでもなったら、安いのか高いのかわからなくなります。
良心的にやっている歯科医院には、患者の為になる質の高い治療をしても赤字になる事なく潤ってほしいものです。
少々高くても、その方が患者としてもメリットがあるからです。
健康の為、治療の質を向上させる為に、もうちょっとこの制度はなんとかならないものでしょうか。
何故歯科だけが異常に安いのか首を傾げたくなります。
収入が低すぎなければ、悪い経営努力に走る人も減るかもしれませんし。
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安さのツケ
ところで、医療関係者でない人にとって「他国に比べて診療報酬が安すぎる」といわれても、それがどれくらいなのかいまいちピンときませんよね。
なので、具体的な数字が紹介されている以下の記事をご覧下さい。
『歯科医師の暴露日記 歯科医師に嫌われる患者と、そうならないために・・・その1。』より引用
ご存知の通り、日本は国民皆保険であり、すべての人が治療を安価に受けることができる。素晴らしい制度となっている。
だが、この保険制度が作られたのは昭和初期・・・らしい。(詳しい時期などは知らない。知識不足で申し訳ない。)
その後、幾度も改定されてきているが、実際の保険点数は昭和初期のころからほとんど変わっていない。それを証明するような画像を見かけたので載せてみる。
この画像の各項目について説明していく。
「治療費」→その国での治療費を日本円に換算した時の金額だ。
「マクドナルド」→世界中にあるのでその国の貨幣価値を調べるときに便利らしい。
「何個分」→治療費に対してバーガー何個分かを記したものだ。
お分かりいただけただろうか。
日本の治療費は発展途上国以下の状態になっているのだ。
結局、その金額の中でスタッフの給与・器具の消毒代・消耗品の代金など、込々で考えると、黒字になる部分など非常に微々たるものだ。そうなってくると、患者自体を詰め込んで多く診ていかなければやっていけない。
患者にとって最高の治療をしよう!と経営無視で最善の治療をしていた先生がわずか1年半で医院が潰れ、それまで通っていた患者が途方に暮れた。という事案も実際に起こっている。
そして、多くの歯医者さんで予約制が導入されているのも、より効率的に診療を行うためだ。
こうしてみると、悲惨ですね。真面目な人がわりを食う・・・
『Yahoo!知恵袋 歯科医が、根管治療は保険では赤字だ!と言っていますが、逆に保険で儲かるのは何治療でしょうか?』より引用
保険制度では、国際的に普通に行われているスタンダードな治療を行うと、材料費にすらならないと言う事です。
保険で成り立つ、と言う事は、安い材料、短時間で出来る事しかしないと言う事です。黒字倒産などとは別問題。
制度的に、手抜きをする人間が良い思いをする制度になっているという事実が問題なのです。
一般の方には、分かりにくいと思いますが、保険で行われている治療は、勉強を続けている歯科医にとっては、手抜きにしか思えない物です。ほとんど、すべき事に報酬がありません。
ですから、安い前に、タダでしなければならないのですから、学問的に正しい治療を行えば、当然、この部分が赤字になります。(トータルでは、利益無しといったくらいでしょうかね。歯によっても違うので。)
だから、経営がギリギリの歯科医院や、悪徳?賢明?名歯科医は、何処かで、材料をケチったり、時間を短くして対処することになるのです。
また、 保険で、儲かる物など、歯科では、存在しないでしょうね。いうなら、手抜き治療でしょう。手抜きした分儲かります。あほらしいけど。(しいて言うなら、外科処置でしょう、材料費がかからないから)
学問的に正しい治療(国際的にスタンダード)とは、根管治療において、防湿、手術用顕微鏡、専用の洗浄システム、ニッケルチタンの使い捨てファイル、これくらいは最低限です。通常、保険では、これらは全て存在しません、無報酬です。これらを、保険で使用するのは、ただ歯科医の良心です。(赤字になる理由が良心とは、おかしいと思いませんか?仕方ないけれど。)
この現状が、患者さん達にも良いことばかりでは無いと考えます。
やや、過激な内容ではありますが、調べているとこれに近い話を、ネットでも本でもよく目にします。
私を検査をしてくれた大きい病院の口腔外科のO先生は、根管治療について色々と説明してくれましたが、根幹治療を保健治療で手をかけると赤字になると話してくれました
で、ご自身の根幹治療は、高くても保険外診療専門医でしたそうです。やはり、よくわかっているだけに質の良い治療を選ぶのだと思います。
くどいですが、以下にも手を抜かざるを得ない状況が書かれています。
『審美歯科・口臭外来・ムシ歯・銀歯・口臭の悩み相談室(新潟・長岡)感染根管治療は、不採算部門の代表格だから・・・』より引用
感染根管治療は、不採算部門の代表格だから・・・
根の治療=根管治療は、保険でマジメにやると赤字になる歯科治療の代表です。
ボランティアじゃないんだから・・・ (勤務医の頃は何も考えてませんでしたが)
しかも、マジメにやろうが手抜きしようが、保険の診療報酬は同じ!! ときたもんだ。
感染根管治療の診療報酬は、全部で約7,000円。(前歯なら約3,000円!!)
何時間かけても、何日かけてもほとんど変わりません。
薬の交換だけであれば、わずか140~300円ですから・・・(T.T)
ずっとドクターが拘束される治療ですから、他の治療と同時は無理です。
しかも、1回で終わることはまずありません。3~4回はかかります。
・・・ということは、1回につき1,750~2,300円程度ということです。
もちろん、この中に治療機材(消耗品)や薬剤費なども含まれています。
スタッフの人件費を考えたら・・・ さよ~なら~(T_T)/~~
ラバーダムなんて、お金も時間もかかるからやってられない(!?)のでしょう。
どれだけ治療時間を短縮して、材料にコストをかけないか・・・ が勝負になります。(なんの勝負なんだか・・・(^^;))
マレーシアで60,000円、アメリカでは180,000円する手間かかる治療なんですけどね。
感染歯質をできるだけ取って、その上で次亜塩素酸ナトリウムなどでしっかり消毒をする。
そして、できるだけ緊密に垂直加圧法などで充填した方が予後は良いハズです。
これはシールドレストレーションという考え方に基づいています。
根管治療している最中だけに、申し訳ない感が半端ないです。
でも、良心的な歯医者さんは、罪悪感にかられるでしょうね。保険医をやめて保険外(自由)診療専門医になる人がいるのもその表れだと思います。
また、長尾氏の著書によると、優れた技術を一生懸命勉強しても、保険診療では生かす場がないので虚しさだけが募るとも書かれています。
これでも「安ければ良いんだ」と考える人もいると思います。ですが、リスクがあるんだということ常にを頭に入れておいて欲しいと思います。
次は、保険診療の歯科医院での保険外診療についてお話します。
保険診療の歯科医院で行われる保険外診療について知っておきたいことへ続く
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