上顎骨の成長不良が、不正咬合や、鼻詰まりの原因になる...というお話のつづきです。
子供の歯並びが悪くなる真の原因。骨格的な不正咬合の予防は母親にかかっている
骨格が原因の鼻詰まりは子供の時の成長で決まる。口呼吸が招く脳への悪影響。
これらの記事では「上顎骨が成長不良になることで起きる問題」について述べてきたので、ここでは、そうならない為に、「子供の上顎がまともに成長する為にはどんな栄養が必要なのか」についてお話しします。
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顔の幅が細い現代人
昔と現代の人では、明らかに顔が変わっています。以下は有名な写真です。
『未来の日本人の顔』より引用
戦後の高校生からの予測
大阪のある高校の50年前と最近の卒業アルバムを使い、CGで50年前の平均顔と最近の平均顔を作って比較すると、高校生の顔は50年間で細長く変化していることがわかる。その変化傾向を延長すると、100年後の未来顔2号ができる(図3)。ただし、50年前と最近の高校生では髪型が違うので、未来顔では極端に髪の毛が多くなっていることに注意。
図3 変わる高校生の平均顔(画像提供・東京大学工学部原島研究室)
50年前の高校生と最近の高校生の平均顔の違いから、未来の高校生の顔を予測した(未来顔2号)。
未来顔の教訓
いずれにせよ、顔かたちの変化では、未来顔1号と未来顔2号はたいへんよく似ている。そのことは、縄文時代や弥生時代から2,000年以上かかった変化と戦後50年間の変化がほとんど同じであることを意味している。変化が加速してきているのだ。
このまま進めば、未来人は、アイスクリームコーン(これが顔)に、丸いアイスクリーム(これが頭)をたっぷり載せたようになってしまう。
未来顔は、若者にとっては、ある意味では格好いいのかもしれない。しかし、顎が細くなりすぎると、歯の生えるスペースが確保できなくなる。その結果、第3大臼歯(親不知)が生えられなくなったり、乱杭歯になったりして、歯の健康のためには危険である。また、顎の関節が未発達だと、少しのストレスで顎関節症を起こすことになる。
この図は、昔から存在しています。
「50年後の高校生」や、「100年後の高校生」の顔は想像図ですが、「50年前の高校生」と「最近の高校生」の顔は、その時の平均の顔です。
確かに細くなってます。
私がこのCG写真を始めて見たのは随分前ですが、その時すでに、「最近の若者の顎は、昔の若者の顎に比べて細い」と言われていました。そんな実感はありませんでしたが、この画像を見た時、やっぱりそうなんだと思ったものです。
でも、気になるのが、何故顎が細くなっているのかですよね。
一般的によく言われている理由は、だいたい「最近は柔らかい食べ物が増えたので、硬いものを噛む習慣がない。だから顎が発達しない」というものです。というか、他の理由は聞いた事がありません。
簡単に言うと、鍛えてねーから、弱いんだ・・・という理屈です。
柔らかい食べ物ばかり食べているのは、その通りなので、その説は説得力がありました。
従って、その時は、言われるがまま、信じていましたし、顎の細さばかりに目がいっていました。
しかしですね、
写真をよく見ると、「最近の高校生」は、下顎だけでなく、上顎から細くなっているのが分かります。
全体的に頭蓋骨の下半分に、横の広がりがありません。
ということは下顎以前の問題で、「何を噛んでいるか」はあまり関係がないように思えます。
鍛えるかどうかは関係ないと思うのですが、「硬いものを噛まないから顎が細いんだ」と大合唱されれば、なんとなく「そうかな」と思ってしまいます。
ですが、それでは上顎骨の幅がない事への説明にはなっていません。
上顎骨の幅が広がらないのは、妊娠中の母親の栄養不足(鉄不足)が影響しています。
ということは、
- 「50年前の高校生」→母親に妊娠出産に必要な栄養が足りていた
- 「現代の高校生」→母親に妊娠出産に必要な栄養が足りていなかった
・・・と考えられるわけです。
引用元の記事では、一応、昔の高校生は「50年前」ということになっています。ということは、彼らが生まれたのは、彼らの年齢15~18歳を引けば、65~68年前ということになります。
今は2017年ですから、1949年~1952年あたりに生まれた人達の平均になります。
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母親と鉄
前回、「鼻中隔軟骨(びちゅうかく・なんこつ)」という軟骨についてお話しました。真ん中に位置し、鼻の土台の役割を果たす重要な軟骨です。
『VERITE CLINIC 鼻中隔延長術~第2章 : 鼻の構造を理解しましょう』より引用
この軟骨が正常に成長すれば良いのですが、そうではない事の方が多いのです。曲がっている人は多いそうです。
子どもの「鼻中隔軟骨」の成長が上手くいかないのは、妊娠前、妊娠中の母親の栄養不足に原因があります。
とくに大事なのは鉄です。
『歯医者の99%は手抜きをする ダメな歯医者の見抜き方 いい歯医者の見分け方 / 著者:歯学博士 長尾周格』より引用
軟骨は主にコラーゲン(Ⅱ型コラーゲン)とプロテオグリカンという糖タンパク質からできていて、特にコラーゲンの合成においては20種類のアミノ酸のほかに、ビタミンCや鉄を必要とします。
鼻中隔軟骨が形成される時期に必要な栄養素が不足すると、軟骨の形成不全が起こり、正常な鼻中隔軟骨の大きさに成長できなくなります。
このように栄養欠乏と鼻中隔軟骨の成長不良とは密接な関係があるのです。
妊娠中の鉄分欠乏と軟骨の成長
鼻中隔軟骨の成長において鉄分は特に重要な栄養素です。しかし鉄分は人間にとって吸収が難しく、消化器官が完成している大人でも、食べ物に含まれている鉄分のうち体内に取り込むことができるのは30%未満といわれています。そのため、消化管が未発達である6歳までの子どもが、食事から十分な量の鉄分を取り込むことは困難です。
しかし一方で、6歳までに脳は大きさにおいて成長をほぼ完了し、上顎の骨の横幅の成長も9割がた終了します。
鼻中隔軟骨は、主に妊娠中に母体からもらってきた鉄分によって作られます。ところがこの時期に十分な鉄分が無いと、鼻中隔軟骨の成長不良が起こり、上あごの横幅が成長不良を起こしてしまいます。
そのため胎児は母親のおなかの中にいる間に、母体からありったけの鉄分をもらって生まれてきます。しかし妊娠時の母体に十分な鉄分が無かった場合には、子どもが鉄分欠乏の状態で生まれてきてしまいます。
(159p~160p)
上顎骨の横幅の成長具合は、鼻中隔軟骨の成長にかかっていて、その鼻中隔軟骨は鉄を始めとした様々な栄養素が必要です。
以前、母親の鉄不足が、子どもの脳に与える影響についてを記事にしましたが、脳だけでなく、骨や軟骨にも影響するというわけです。
鬱や睡眠障害や発達障害の原因を栄養の視点から考える。鉄不足が脳に与える影響は深刻だった
母親の責任は大きいと言えます。彼女達に正しい知識を教えなければいけないのですが、その環境が整っていない。
ハッキリ言って、これは、中学校の保健体育の授業で教えるべき事です。
子どもの鉄は、妊娠中に母体から貰ってきた鉄に委ねられるので、妊娠前に栄養(特に鉄)をしっかり蓄えておく必要があります。
女性は、一回の妊娠出産で「フェリチン(貯蔵鉄)」を50失います。
失うというのは、子どもに持っていかれるということです。当然、母親の「フェリチン」が50以下であれば、子どもが十分な鉄を貰えないだけでなく、母親も自身のフェリチンが枯渇するので健康ではいられません。
「産後のうつ」は、妊娠出産による「鉄欠乏」が原因です。
フェリチンは普通、測りません。
しかし、妊娠予定のある人は妊娠前に自身の体に鉄がどれだけあるのか、フェリチンを測っておくことをお勧めします。何故なら、女性は生理で鉄不足になるので、鉄を体に蓄えるのは、食事だろうが、サプリだろうが、時間がかかるからです。
『ロバスト・ヘルス 飽食先進国で若い女性の貧血が深刻』より引用
「じゃあ、妊娠したら鉄剤を飲まないと」と思われたかもしれません。しかしそれでは遅いのです。ヘモグロビンの値が正常化するには6-8週かかります'。
英国国民保険サービスによれば、鉄剤は通常、2-4週間ごとに担当医が反応を確認しながら内服を続け、ヘモグロビンが正常値になった後さらに3カ月の継続が推奨されます。
貯蔵鉄を満たすためです。妊娠に気づいてからの対応では、胎児の臓器・器官が急速に発達する妊娠初期〜中期に、胎児に「薄い血」を供給することになる可能性があります。
日本人の生理がある女性の多くは30以下です。
ちなみに、海外では妊娠するにあたって鉄がこのくらいないといけないという基準があり、中には、フェリチン40以下では妊娠は許可されない国もあるそうです。
妊娠前に「フェリチン」を測る事、鉄を摂取する事の重要性を分かっていただけたのではないかと思います。鉄が足りていないと、子供の成長に影響がでますから。
そして、忘れてはいけないのが、鉄の吸収には「タンパク質」が必要であるということです。
この2つがセットで足りている事が基本となります。
鉄製品の効果について
「50年前の高校生」は、上顎骨の幅があるので、彼らを産んだ母親は、妊娠時に鉄もタンパク質も足りていたということになります。
その時代の「鉄」や「タンパク質」事情について考えてみます。
まずは「鉄」からです。
「50年前の高校生」が生まれたのは65~68年前ですので、母親は1949年~1952年あたりに出産したと考えられます。
昭和20年代です(昭和24年~27年)。
彼女達と、それ以降の世代の母親では、「鉄」の摂取量が違います。
1949年~1952年に子どもを生んだ女性が食べていた料理は、ほぼ鉄製の調理器具で調理されていたと思います。鉄の羽釜、鉄の包丁、鉄瓶、鉄鍋を使っていたはずです。それに比べると、現代の調理器具は鉄製の物は少ないですよね。
昭和20年代の女性は、鉄製の調理器具のお陰で、現代女性よりも多く鉄分を摂取できていたと考えられます。
鉄の調理器具で料理をすると、食材の鉄分が豊富になります。あの「ひじき」の鉄分でさえ、鉄鍋の効果によるものだそうです。
『医療法人 弘鳳会 専門医のコラム ひじきの鉄分が9分の1 ! 「ひじきは鉄分の王様」 は過去の話…。』より引用
ひじきは鉄釜で茹でていたから、鉄分が豊富だったのか !!
干しひじきは、原料の海藻を鉄製の釜で煮て渋みを取り、乾燥して作られます。以前はひじきを煮るとき、鉄製の釜が使われていました。しかし近年、使われる釜が鉄製からステンレス製に代わりました。それで、ひじきに含まれる鉄分が減ったというのです。
鉄釜で茹でていたから、ひじきの鉄分が多かった…。つまり、ひじき自体には鉄分は多くなかったということでしょう。
今回改訂された成分表を見ると、ステンレス釜で加工されたひじきには、100gあたりの鉄は6.2mgしか含まれていません。一方、鉄釜での加工だと58.2mgです。
鉄分という観点でひじきを利用したい場合は、原材料の表記で、ステンレス製の釜で加工したのか、鉄製の釜で加工したのかをチェックしたほうがいいでしょう。
ひじきのほかに、切り干し大根について見てみると、100gあたりの鉄分は3.1mgで、以前の9.7mgのおよそ3分の1となっています。これも、以前は鉄製の包丁で加工していましたが、ステンレス製の包丁にとってかわったため、鉄分が減ったと考えられています。
1949年~1952年に子どもを生んだ女性達は、子供の成長に必要な鉄を日常的に摂っていたのです。
それとこの世代は、戦後から少しずつ豊かになっていって、動物性食品も容易に手に入るようになった為、鉄だけでなく「タンパク質」の摂取量も増えています。
『公益財団法人 日本食肉消費総合センター 食生活の変化と寿命の延びの関係は?』より引用
今から約80年前、大正7年の家庭では、漬け物やみそ汁をおかずに米を4人で毎食5合食べたという記録があります。
油脂はほぼゼロ、動物性食品は20gの塩蔵魚を週5回ほど食べていますが、平均的総摂取熱量は2,100kcalと現在(平成10年1,979kcal)より多く、タンパク質も平均53g摂取(平成10年は約80g)。
こうした穀類中心の粗食が、結核などの感染症や脳卒中を招いたといわれています。
戦後、動物性食品が食卓に上りだすと日本人の寿命も次第に延び始めます。
まず感染症の代表・結核が昭和20年代から30年代に激減、死亡率のトップは脳卒中に変わります。
昭和40年代以降は脳卒中も減り、昭和50年代に死亡率第一位はガンに変わりました。
(中略)
昭和25年(1950年)頃のタンパク質摂取量は1日68gで、
昭和35年(1960年)69.7g、
昭和55年(1980年)78.7g、
平成10年(1998年)79.7gとなっています。
脂肪摂取量は昭和25年には1日18gが昭和55年に55.6g、平成10年には57.9gと50年前の3倍近くに増えました。
タンパク質と脂肪の摂取増は寿命の延びと比例し、それは動物性食品の増加とも比例します。
昭和35年の肉類摂取量は1日18.5gですが平成10年は77.5gと約4倍に、同じく卵類は2倍強、牛乳・乳製品は約4倍に増えました。
魚介類は約1.3倍の伸びにとどまっています。
戦後はまだ肉が高価だったので、今程たくさんの肉を食べる事はありませんでした。しかし、それ以前の日本の食事と比較すると、明らかにタンパク質の摂取量が増えました。だからこそ、
>感染症の代表・結核が昭和20年代から30年代に激減
ということに繋がったのです。
この世代は「タンパク質」単体で見れば、現代人より少ないです。しかし 鉄+タンパク質 の両方が摂れる環境だったと言えます。
これで、「現代の高校生」の上顎が貧弱で、「50年前の高校生」の上顎がガッチリしているのか、腑に落ちます。
今の世代は、タンパク質・脂質は足りても、調理器具がステンレスやテフロンとか鉄以外の製品になったため鉄が不足しています。
従って、上顎が丈夫に成長しないわけです。
50年よりもっと前の世代は、鉄製品から鉄の摂取はできても、欧米化していない純粋な日本食だったので、脂質・タンパク質不足だった為、鉄を摂っても吸収が悪かったと考えられます。出っ歯が多かったのは、鉄を摂れてもタンパク質が不十分だったからではないでしょうか。
何故、「栄養の乏しい昔の和食」を食べていた人が、現代人より頑丈な子を生むのか謎でしたが、
冷静に考えたら、50年前の高校生が生まれる前は、今ほどではないにしろ動物性食品も多少は豊かですし、鉄も摂れる・・・この世代が一番、栄養の良いとこ取りをしていたのです。
大事なのでもう一度言いますが、鉄の吸収にはタンパク質が必要なのです。
現代人のように鉄が足りなくてもダメ、戦前の人のようにタンパク質が足りなくてもダメなのです。タンパク質不足を治さないと、鉄は増えません。
戦後1949年~1952年あたりに出産した女性は、偶然が重なって「鉄タンパク」が両方摂れていたため、子供の上顎が十分成長したのでしょう。
まとめるとこんな感じですね。
- 現代の高校生を産んだ母親 → タンパク質は足りても、鉄が足りない
- 50年前の高校生を産んだ母親 →タンパク質を食べるようになり、鉄も足りている
- 昔の母親 →タンパク質が足りないが、鉄は足りている
一応付け加えておきますが、昔の人の場合、タンパク質を食べれる環境にあるかどうかは人によって違います。肉は高価でしたので、家庭の経済状態によって食べられない人もいたと思います。
そして、「その人の生まれ育った地域の食文化」に左右される可能性も高いです。
場所によっては、ほとんど動物性のタンパク質を摂らない地域もあれば、魚や昆虫などからタンパク質・脂質を積極的に摂取していた地域もあります。後者の場合は、タンパク質・脂質+鉄が摂れていたと考えられます。
従って、戦前生まれの日本人には出っ歯の人もいますが、「50年前の高校生」の写真のように、顎がガッチリしていて、魚の背骨を平気で噛み砕くようなツワモノも多いのです。実際に、私の周りにそういう年配者がいます。
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最近の母親の栄養状態
「50年前の高校生」の栄養状態 > 「最近の高校生」の栄養状態
は、言い換えると、
「50年前の高校生を生んだ母親」の栄養状態 > 「最近の高校生を生んだ母親」の栄養状態
ということです。
ここまでの説明から、現代人に鉄が不足している事は理解していただけたかと思います。
しかし、調べてみると、若い女性に不足しているのは「鉄」だけじゃないようです。ダイエット等で、摂取カロリーが終戦直後より低いのだそうです。
ダイエットといえば、動物性食品を減らすのが王道ですから、タンパク質や脂質も不足している可能性大です。
『NAVER まとめ 若い女性の摂取カロリーは終戦直後より低い・・。“痩せすぎ”な人が多すぎる日本』
ダイエットもこのレベルになると危険です。
戦時中や、終戦直後の食料が無かった話は散々聞かされて育ってきましたので、それ以下って凄いと思います。
といっても、糖質制限をする前までの私は、1日1食とか、断食をしていましたので、人のことは言えません。当時は、体温は低いし、何もしなくても疲れるし、代謝は落ちるし、体重は増えないし、不健康でした。
おまけに女性は甘いものが大好きです。これらの代謝によって、ビタミン・ミネラルも浪費されます。
ほとんどが、糖質過多・タンパク質不足・脂質不足・ビタミン不足・ミネラル不足です。
この状態で、健康な子供が生まれるだろうと思うのが間違いです。
また、糖質過多だと「卵子」や「卵巣」が糖化してしまいます。「卵子」は数が決まっていて、入れ替らないので注意が必要です。
卵子が老化する原因と防ぎ方。卵子の質を悪化させない食習慣は、不妊症の改善にも期待できる
子供の上顎がどうしてまともに成長しないのか、についてお話してきました。
「近代食」を食べなかった先住民のような「しっかりした骨格」に成長するには、女性の努力はもちろんですが、正しい知識を得られる環境が必要です。
子供の成長にはどんな栄養素が必要なのかをもっと伝えていかなければなりません。
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