- 投稿 2017/06/19
- 分かりやすいシリーズ
「代謝(メタボリズム)」とは、体内で起こる化学反応の事です。
そして、生体内の代謝には、大きく分けて2つあります。
- エネルギー源である「ATP」を作る代謝
- 「ATP」を使って、「ATP」以外のものを作る代謝
細胞には、後者「ATP以外のもの」を作る任務があります。しかし、その活動に必要なエネルギーも自分で作らなければならないのです。
本記事では、前者の、エネルギー源であるATPを作る「エネルギー代謝」についてお話します。
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エネルギー物質ATP
まずは、「ATP」が何なのかについてご説明します。
日本名は、「アデノシン3リン酸」です。
「ATP(エーティーピー)」は、簡単に言うと、エネルギーを溜め込んで充電がMaxの電池のような状態です。
また、エネルギーを放出して空っぽの状態を「ADP(エーディーピー)」と言います。
そして、充電するには、何段階もの化学反応が起きます。
この「ATP」のエネルギーが無ければ、生体は生きていくことができません。
当然、後者の「ATP以外のものを作る」代謝も行なわれません。
不足すると、慢性疾患の原因になり、無くなれば死にます。どの生物でもです。
その為、「ATP」を作ることが重要なのです。
そして、「ATP」の材料は、糖質、脂質、タンパク質です。
このうち、燃料としてあてになるのは糖質と、脂質です。タンパク質は体の主成分になりますが、燃料としてはイマイチで、あまりあてになりません。
ATPとミトコンドリア
自らの活動資金(エネルギー物質ATP)を捻出するのも、細胞の仕事です。
そのエネルギー物質ATPは、細胞の中の「ミトコンドリア」で作っています。
(細胞の図)
「ミトコンドリア」とは、一言で言うとエネルギーを作る発電所です。
なので、エネルギーをたくさん必要とする細胞は「ミトコンドリア」をたくさん持っています。
ただし、「ミトコンドリア」は酸素を使って「ATP」を作り出しているので、酸素があることが発電の条件です。
酸素がない = ミトコンドリアでATPが作れない
「ATP」は酸素がないと作れないのか・・・
というと、そんなこともありません。酸素がなくても、「ATP」をつくることは可能です。
ただし、ミトコンドリア発電所に頼ることはできません。その場合、別の方法で「ATP」を作ります。
ミトコンドリアを使わずにATPを作る
ミトコンドリアというのは、酸素がないと発電できませんから、酸素が滞る場合は、こちらの発電所は利用できません。
そんな時でも、細胞の液体部分「細胞質基質(さいぼうしつ・きしつ)」で起こる発電なら、酸素がなくてもエネルギーを作り出すことができます。
この発電方法には、酸素がいらないので、嫌気的解糖(けんきてき・かいとう)という名前がつけられています。(別名:解糖系)
「嫌気的解糖」は、酸素を要求する「ミトコンドリア」に頼らなくてもいいというメリットもありますが、少しの「ATP」しか作り出せないデメリットがあります。
そして、「酸素が足りない時」というのは、以下のようなケースです。
- 激しい運動をして酸素供給が間に合わない
- 細胞内にミトコンドリアを持っていない細胞(例:赤血球)は、そもそもミトコンドリアに頼った発電自体ができない
・・・このような場合、酸素が必要ない嫌気的解糖によって「ATP」を作り出すことができます。ですが、この方法では作り出せる「ATP」が少ないので、エネルギー不足になります。
「ATP不足 = 不健康」なので、やはり酸素を使った「ミトコンドリア」でのATP発電の方が、たくさんの「ATP」を作りだすことができるので健康的です。
嫌気的解糖 = ATP少ない = 不健康
ミトコンドリアでの反応 = ATP多い = 健康
このように「材料である、糖質、脂質、たんぱく質を分解してATPを作る」反応を「呼吸」と言います。
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呼吸とは
ここで、「呼吸」の定義についてお話します。
一般的に使う「呼吸」という言葉は、「酸素を吸って、二酸化炭素を吐くこと」を意味します。
ですが、生物学で使う「呼吸」という言葉は、「細胞が有機物を分解して、その過程で生じるエネルギーを「ATP」に蓄えること」を意味します。
前者が肺で行なっている「外呼吸(ガス交換)」で、後者は「内呼吸(細胞呼吸)」です。「外呼吸」で吸収した酸素を使って、「内呼吸」で「ATP」を作ります。
本記事では、「内呼吸」について説明しています。
「ATP」にエネルギーをつめる = 内呼吸
好気呼吸と嫌気呼吸の違い
エネルギーを「ATP」に蓄える「内呼吸」には、2パターンあります。
先程もチラっとでてきましたが、「呼吸に酸素がいるか、いらないか」です。
- 酸素が必要な呼吸・・・好気呼吸(こうき・こきゅう)
- 酸素が必要じゃない呼吸・・・嫌気呼吸(けんき・こきゅう)
前者の酸素が必要な「好気呼吸」は、動物や植物が行なっています。
後者の酸素が必要じゃない「嫌気呼吸」は、先程紹介した「嫌気的解糖」、酵母菌や植物等が行なう「アルコール発酵」や、乳酸菌が行なう「乳酸発酵」です。
先程の復習ですが、効率よく「ATP」が作れるのは、酸素を利用した“好気”の方です。
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糖質からATPを作る
「ATP」の材料になるのは「糖質」「脂質」「タンパク質」でした。
最初に、「糖質」の代謝について説明します。
「糖質からATPを作る」というのは、言い換えると、「ブドウ糖からATPを作る」です。
ブドウ糖を分解して「ATP」を取り出すには、まず、「解糖系 かいとうけい」という名前の反応が起きます。
解糖系とは
「糖質」を食べると、消化器官でグルコース(ブドウ糖)に分解されます。
グルコースは小腸で吸収され、血液によって全身の細胞に届けられます。
すると、グルコースは、最初に細胞内の液体部分「細胞質基質 さいぼうしつきしつ」に到着します。
細胞(簡略化)
ここで行なわれる「解糖系」とは、先程説明した「嫌気的解糖系(けんきてきかいとう)」の事です。「嫌気的解糖」は、名前の通り酸素が必要ありません。
また、「解」「糖」という名前の通り、グルコース(糖質)が分解されます。
何段階か代謝があるのですが、最終的に「ピルビン酸」に変身します。
グルコース
↓
(何段階か代謝)
↓
ピルビン酸
で、その分解の過程で発生したエネルギーによって、「ATP」が2個と、「水素」が生じます。
で、グルコースは「ピルビン酸」になったわけですが、ここが分かれ道です。
ここから先、もし酸素がなければ、ミトコンドリア発電所で発電することはできません。「ピルビン酸」は「乳酸」になります。
ここまでだと「ATP」は2個です。つまり、
解糖系 = ATP2個
しかし、もし酸素があれば、ミトコンドリアで発電することができます。
(追記)ちなみに、右が健康的なルート、左が不健康なルートです。左のルートに偏ると、乳酸の蓄積を招くので、癌が発生しやすくなります。癌が発生する過程は以下に書きましたので参考にして下さい。
ここからは、解糖系でできた「ピルビン酸」が、ミトコンドリアのマトリックスの中に進んだ後のお話をします。
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ミトコンドリアのマトリックス(クエン酸回路)
「ピルビン酸」は、酸素がない状態だと、ミトコンドリアで発電する資格がないので「乳酸」になりますが、酸素があればミトコンドリアでもっと多くの「ATP」を作ることができます。
ミトコンドリアのマトリックスでは、「クエン酸回路 くえんさん・かいろ」という名前の反応が行なわれます。
ミトコンドリアのマトリックスに移動した「ピルビン酸」は、そのままでは「クエン酸回路」に参加することができません。
なので、まず、酵素の働きによって代謝されて「アセチルCoA(あせちるこ・えー)」という物質になります。
ピルビン酸
↓
アセチルCoA
さらに、「アセチルCoA」は、マトリックスの中の「オキサロ酢酸」という物質と反応して、「クエン酸」になります。
そこから、さらに何回も姿を変えるのですが、ぐるっーと一周回って、最後は再び「オキサロ酢酸」になり、また「ピルビン酸から作られるアセチルCoA」と反応する...
と、何度もクルクルと繰り返し反応できるというわけです。
だから「回路」、そして、一番最初に変わるのが「クエン酸」だから「クエン酸回路」です。別名は「TCA回路」です。
この過程で、2分子の「ATP」が生じますが、「水素」も生じます。
この「水素」が、次に続く反応経路で、「ATP」を作るために必要なのです。
ここまで、「解糖系」→「(酸素あり)クエン酸回路」、と来ました。
次に続く反応経路の名前は「電子伝達系 でんしでんたつけい」です。
この反応が行なわれる場所は、ミトコンドリアの内膜です。
電子伝達系
「電子伝達系」は、好気呼吸の最終段階です。反応が起こる場所は、ミトコンドリアの内膜です。
「解糖系」と「クエン酸回路」で生じた水素は、ミトコンドリアの内膜に集まってきて、酸素と結びつきます。
そして、「ATP」34個と、水を合成します。
「ATP」34個・・・「電子伝達系」の「ATP」の合成は、「解糖系(ATP2個)」、「クエン酸回路(ATP2個)」と比べて圧倒的に多いのが分かると思います。
ここまで、糖質の代謝を簡単にみてきました。次は「脂質」の代謝について説明します。
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脂質からATPを作る
脂質の代表が「中性脂肪」です。
中性脂肪は、「グリセロール」と、「脂肪酸が3個」が結合した構造をしています。
「グリセロール」と「脂肪酸」・・・この2つは、代謝経路が少し違います。前者は、解糖系の途中へ合流しますが、後者は少しずつ分解されて「アセチルCoA」になります。
- グリセロール(グリセリンともいう)・・・解糖系の途中へ
- 脂肪酸・・・分解されて(炭素鎖が2個ずつ切れて酸化されて)アセチルCoAに変身する
脂質は、糖質やタンパク質に比べると、多くのATPを作ることができます。
「脂肪酸」は高エネルギーです。
『ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか 著者:宗田哲男』より引用
通常は、細胞が必要なエネルギー(ATP)は、グルコースが解糖系からピルビン酸とアセチルCoAを経て、TCA回路(クエン酸回路)へと代謝され、さらに酸化的リン酸化によって産生されます。
このときに、グルコースからATPへと変換されるのは、1分子から2分子です。
一方、脂肪酸からエネルギーを産生する場合は、脂肪酸が分解(β酸化)されてアセチルCoAになり、このアセチルCoAがミトコンドリアのTCA回路で代謝されてATPを作り出します。
このときの脂肪酸酸化は、たとえば活性化されたパルミチン酸のβ酸化は、7サイクルくり返されるので、パルミチン酸からは8分子のアセチルCoAができて、それぞれ12分子のATPが生じますから、最終的には129分子という多くのATPが得られます。
これは、ブドウ糖の場合に比べてかなり大きなエネルギーになります(『ハーパー・生化学』原書27版訳本P157、丸善)。
(127p)
そして、「グリセロール」は、糖質以外の材料から糖質をつくる「糖新生 とうしんせい」というシステムによって「グルコース」に変換されます。
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タンパク質からATPを作る
「タンパク質」は、糖質や脂質にくらべて、エネルギーとしてあてになりませんが、「ATP」は作れます。
タンパク質は、アミノ酸が鎖になったものです。なので、まず、タンパク質はアミノ酸に分解されます。
タンパク質
↓
アミノ酸
ところで、
糖質と脂質は「炭素」、「水素」、「酸素」からできています。
タンパク質は「炭素」、「水素」、「酸素」と「窒素」が含まれています。
ATPを作る時、この「窒素」である「アミノ基」は邪魔なので外されます。
で、「炭素」、「水素」、「酸素」から構成される分子に変換して、クエン酸回路に入るというわけです。
そして、クエン酸回路の入り方にはいくつかあります。
アセチルCoAになってから、クエン酸回路に入る方法や、
アセチルCoAにならずにクエン酸回路に入る方法です。
どのルートを辿るかは、アミノ酸の種類によって決まっています。
ちなみに、外された「アミノ基」は、そのままでは毒性のある「アンモニア」になります。これは体に悪いので、「尿素」に作り変えられ、最終的に尿中に排泄されます。
説明について
本記事では、全体の流れが掴めるように、細かい部分はかなり省略して説明してみました。
ここで書ききれなかった細かい部分は、今後、必要であれば、それぞれの記事のテーマに合わせて、深堀して説明していくつもりです。
(追記)エネルギー代謝の視点から見た健康
「糖質」、「脂質」、「タンパク質」のうち、「タンパク質」は体の主成分でエネルギー源としてはあてにならないので、「ATP」の主な材料は「糖質」と「脂質」になります。
脂質は高エネルギーです。
一方、糖質は「解糖系→クエン酸回路→電子伝達系」と進めば中エネルギーですが、「解糖系」だけだと低エネルギーで「乳酸」を発生させます。
当然、健康に良いのは「脂質」です。
糖質の場合は、代謝が「解糖系に傾いて乳酸を発生させる」か、「ミトコンドリアまで進んで代謝し切る」かによって、健康状態が変わってきます。
乳酸はpH5程度の酸性です。その為、蓄積すると血液が酸性に傾き慢性疾患の原因になります。
糖質を摂られている方が健康の為に気をつけた方がいい事は、代謝を「解糖系」に傾けない事です。以下はその為の具体的な方法になります。
ベジタリアンや糖質を止められない人が、健康の為に摂っておきたい栄養素とは
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