- 投稿 2017/11/25
- 分かりやすいシリーズ
以前、エネルギー代謝の「解糖系」、「クエン酸回路」、「電子伝達系」、それによって産生される「ATP」について記事にしたのですが、内容は全体に軽く触れる程度でした。
なので、「解糖系」、「クエン酸回路」、「電子伝達系」を小分けにして、以前より細かく説明していきます。本記事は、そのうちの「解糖系」について取り上げます
そして、この記事の説明に使っている絵ですが、
普通は原子を、C(炭素)、O(酸素)、H(水素)、N(窒素)・・・と、アルファベットで書くのですが、私は英語だとピンとこないので漢字にしました。ただし、カタカナだとしっくりこなかったので、リンだけは「P」にしました。
化学が得意な人には邪道な表記で申し訳ないのですが、大目に見ていただけると嬉しいです。
それでは本題に入ります。
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解糖系とは
「解糖系」とは、糖を分解する経路の事で、10段階の反応からなります。糖は「ブドウ糖(グルコース)」のことです。これまでは、
グルコース
↓
(何段階か反応)
↓
ピルビン酸
・・・と、かなり省略して説明していましたが、今回はこの間の説明になります。
「解糖系」で得られるのは、エネルギー物質「ATP」が2分子と、電子伝達体の「NADH」が2分子です。
ATP・・・2分子
NADH・・・2分子
そして、「グルコース」1分子から、「ピルビン酸」は2分子できます。
なので出発点は「グルコース」です。
①グルコース → グルコース6リン酸
以下がグルコースの構造です。
まず、「グルコース」が、リン酸基を付けられる「リン酸化」という反応によって、「グルコース-6-リン酸」になります。
ただし、
解糖系の目的は「ATP」を得る為ですが、その為にはまず一番最初に「ATP」を1分子使います。
「ATP」を作る為に、「ATP」を使うわけです。世間ではこれを「投資」と言います。
そして、こちらがエネルギー物質「ATP」の構造です。
「アデノシン・トリ・ホスフェート / 和名:アデノシン3リン酸」という名前の通り、リン酸基が3つ付いています。
「3があるなら他の数字もあるのか」と思われるでしょうが、当然あります。「トリ(3)」と、「ジ(2)」と、「モノ(1)」です。
リン酸1つ・・・AMP
リン酸2つ・・・ADP
リン酸3つ・・・ATP
今回登場するのは「ATP」と「ADP」です。前者が「エネルギーが蓄えられている状態」で、後者が「エネルギーを放出した状態」です。
以下の、「1と2の間」、「2と3の間」のところは、「高エネルギーリン酸結合」と言います。
「ATP⇔ADP」の場合、3と2の間が結合する(ADPをATPに変換する)とエネルギーが蓄えられ、結合部分が外れる(ATPがADPに変換される)とエネルギーが放出される仕組みになっています。
生体はこのエネルギーを利用して生命活動を行なっているのです。
ATP(3) ⇔ ADP(2)
ちなみに、ATPに蓄えられたエネルギーの使用期限は短いので、合成されても、すぐに消費されます。そして再びエネルギーが蓄えられます。
それでは、話を「グルコース」に戻します。
「解糖系」では、まずこのATPの「リン酸基」が外れて、「グルコース」に付けられます。
すると、エネルギーを放出した「ATP」は、「ADP」となり、「グルコース」は「グルコース-6-リン酸」になります。
「グルコース」にはなかったリン酸がくっついています。
そして、この反応に使われる酵素は「ヘキソナーゼ」と言います。へきそ(hexo-)とは「6」のことで、六炭糖を指します。
「ヘキソナーゼ」のように、基質(元の物質)から何かを切り離して、それを別の基質にくっつける酵素のことを「転移酵素」と言います。
そして、「グルコース-6リン酸」は、次の反応へと進みます。
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②グルコース6リン酸 → フルクトース6リン酸
次に「異性化」という反応が起きます。「異性化反応」では、原子の種類や数は減ったり増えたりせずに、場所だけ変わります。
この反応で使われる酵素は、「グルコース-6-リン酸イソメラーゼ(異性化酵素)」です。
「グルコース-6-リン酸」は、「フルクトース-6-リン酸」に変化します。
「グルコース-6-リン酸」も、C6 H13 O9 P。
「フルクトース-6-リン酸」も、C6 H13 O9 P なので、数は変わっていません。
「フルクトース-6-リン酸」は次の反応へ進みます。
③フルクトース6リン酸 → フルクトース1.6-ビスリン酸
次は再び「リン酸化」が起きます。つまり、投資をしなければいけないので、ここでもまたATPを使います。
この反応の酵素は、「ホスホフルクトキナーゼ」です。
これにより、「ATP」は「ADP」となり、「フルクトース-6-リン酸」は「フルクトース-1,6-ビスリン酸」になります。
リン酸を2つ手に入れました。
「フルクトース-1,6-ビスリン酸」は次の反応に進みます。
④フルクトース1.6-ビスリン酸 → ジヒドロキシアセトンリン酸 & グリセルアルデヒド三リン酸
これまで足したり入れ替えたりしてきましたが、次の反応は開裂です。これにより6炭糖が3炭糖に割れます。
この反応で使われるのは、水を加えることなく切断する「脱離酵素」で、「アルドラーゼ」と言います。大雑把ですが、だいたいこの辺りから真っ二つです。
そうしてできたのがこちらの2つです。ただ割れただけでなく、配置も少し変わっています。
この2つは、原子の数や種類は同じですが、配置が違います。
「グリセルアルデヒド-3-リン酸」は次へ進むことができるのですが、「ジヒドロキシアセトンリン酸」はこの状態だと進めません。
なので、「ジヒドロキシアセトンリン酸」は、もう一度反応して「グリセルアルデヒド-3-リン酸」になります。
それが、次の反応です。
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⑤グリセルアルデヒド-3-リン酸 → ジヒドロキシアセトンリン酸
「ジヒドロキシアセトンリン酸」を「グリセルアルデヒド-3-リン酸」に変える酵素は、「トリオースリン酸イソメラーゼ」です。これによって異性化が起きます。
- グルセルアルデヒド-3-リン酸
- ジヒドロキシアセトンリン酸 → グリセルアルデヒド-3-リン酸
こうして、2つの「グリセルアルデヒド-3-リン酸」が生成されました。
この反応によって2分子になってしまったので、これ以降は、グルコース1分子あたりの中間代謝物は2倍になります。
1分子だけ描きますが、後で計算する時に2倍にします。
というわけで「グリセルアルデヒド-3-リン酸」は、次の反応に進みます。
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⑥グリセルアルデヒド3リン酸 → 1.3-ビスホスホグリセリン酸
ここでは、新たな物質が登場するのでちょっとややこしくなります。その名は「NAD えぬえーでぃー」です。
正式名は、「ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)」です。「脱水素酵素」の補酵素(サポート役)になります。
この「NAD」には、水素(のもつ電子)を預かる働きがあります。
このような化合物の事を「電子伝達体 でんしでんたつたい」と言います。
上のイラストは、「酸化型」といって水素を預かる前の状態です。
「酸化 さんか」とは、「電子を失う事」、「水素を失う事」です。
逆に、「電子を得る事」、「水素と化合する事」を「還元 かんげん」と言います。
そして、「酸化型」があるということは、「還元型」もあるということです。それが「NADH」です。
「NADH」は還元型なので、水素(電子)を預かった状態です。どこかに水素がついていますので探してみて下さい。
それでは、話を「グリセルアルデヒド-3-リン酸」に戻します。
「グリセルアルデヒド-3-リン酸」を「1,3-ビスホスホグリセリン酸」にするには、「脱水素」と「リン酸化」という2つの反応が同時に起きます。
ここで使われる酵素は、「グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ」です。
「脱水素」を行なう酵素を「脱水素酵素」というのですが、英語だと「デヒドロゲナーゼ(de-hydrogen-ase)」です。
“hydrogen”は水素、“de”は外す、脱するという意味です。
そして、「リン酸化」も起きるので、パーツである「リン酸(Pi)」も必要です。
流れは、
「グリセルアルデヒド-3-リン酸」から水素が外れ、「NAD(酸化型)」に預けられます。
同時に、どこから表れたのか不明ですが、「リン酸」が「グリセルアルデヒド-3-リン酸」にくっつきます。
すると、「NAD」は「NADH(還元型)」となり、
「グリセルアルデヒド-3-リン酸」は「1,3-ビスホスホグリセリン酸」になります。
リン酸が2つになった「1.3-ビスホスホグリセリン酸」は次の反応に進みます。
⑦1.3-ビスホスホグリセリン酸 → 3ホスホグリセリン酸
ここでは「ホスホグリセリン酸キナーゼ」という転移酵素を使います。
「1.3-ビスホスホグリセリン酸」は、2つあるリン酸のうちの1つを「ADP」にあげます。
「ATP」の説明をした時に少しお話しましたが、こちらが「ADP」の構造になります。
「アデノシン・ジ・ホスフェート / 和名:アデノシン2リン酸)」と読み、“Di(ジ)”というのは、数字の2です。
リン酸が2つあるということを表しています。
これに、更にリン酸が1つ加わると、「アデノシン・トリ・ホスフェート / 和名:アデノシン3リン酸」、つまり「ATP」になるわけです。
もう一度言いますが、「ADP」から「ATP」になることで「高エネルギーリン酸結合」の部分にエネルギーが蓄えられます。
では話を戻します。
「ADP」は「1.3-ビスホスホグリセリン酸」からリン酸を1つもらいます。
これで「ATP」が1つできました。
一方、リン酸を譲った「1.3-ビスホスホグリセリン酸」は、「3-ホスホグリセリン酸」になりました。
「3-ホスホグリセリン酸」は次の反応に進みます。
⑧3ホスホグリセリン酸 → 2ホスホグリセリン酸
次は異性化です。原子の数や種類は変わらず、配置が変わります。
ここで使われる酵素は「ホスホグリセリン酸ムターゼ」です。それにより、「3-ホスホグリセリン酸」は「2-ホスホグリセリン酸」になります。
「2-ホスホグリセリン酸」は次の反応に進みます。
⑨2ホスホグリセリン酸 → ホスホエノールピルビン酸
この反応では、除去付加酵素の「エノラーゼ」が使われます。これによって「2-ホスホグリセリン酸」の脱水が起きます。
酸素1、水素2(つまり水分子)が脱離します。
その結果、「ホスホエノールピルビン酸」になります。
「ホスホエノールピルビン酸」は次の反応に進みます。
⑩ホスホエノールピルビン酸 → ピルビン酸
「ホスホエネールピルビン酸」にはリン酸がついています。これを「ADP」にあげて「ATP」を合成します。
使われるのは転移酵素の「ピルビン酸キナーゼ」です。
「ADP」は、リン酸をもらって「ATP」になり、
「ホスホエノールピルビン酸」は、リン酸を外したことで「ピルビン酸」になりました。
解糖系によって得られたもの
「解糖系」の流れを振り返ります。
2倍で計算しています。
1分子の「グルコース」から、10段階の反応を経て、2分子の「ピルビン酸」になり、
「グリセルアルデヒド3リン酸」から「1.3-ビスホスホグリセリン酸」になる反応で、水素(の持つ電子)を預かった「NADH」が2分子できました。
この水素は、ミトコンドリアの内膜で起こる「電子伝達系」で使われます。
そして、目的の「ATP」は、「1.3-ビスホスホグリセリン酸 → 3ホスホグリセリン酸」の反応で2分子、「ホスホエノールピルビン酸 → ピルビン酸」の反応で2分子得られたので、合計4分子ということになります。
しかし、最初に2分子投資しているので、それを引くと、「解糖系」で得られるATPは2分子ということになります。
本記事の絵は、主に以下の動画を参考にしました。英語は分からないのですが、非常に丁寧に描かれていて感動しました。
動画の方が分かりやすいので、見る事をオススメします。
クエン酸回路(TCA回路)について分かりやすく説明してみたへ続く
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