栄養には、体内で「合成できるもの」と、「合成できないもの」があります。

 

そして、「体内で合成できないので、外から補わないといけない栄養素」のことを「必須〇〇〇」と呼びます。

 

必須脂肪酸がある「脂質」と、必須アミノ酸がある「タンパク質」は、常に食事で補う必要があります。

 

 

一方、「糖質」には必須糖質というのはありません。糖質は体内で合成することができるので、わざわざ食事から摂る必要はないのです。

 

 

糖質以外の物質から、糖質を合成する事を「糖新生 とうしんせい」と言います。

 

 

この「糖新生」が行なわれる場所は、主に「肝臓」、そして「腎臓」です。

 

 

本記事ではその合成が「どのように」行なわれているのか、シンプルに解説します。

 

 

 

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糖新生と解糖系

 

 

「糖新生」の流れを乱暴に言ってしまうと、エネルギー代謝の「解糖系」の逆行です。

 

 

分からない方の為に、「解糖系 かいとうけい」について簡単に説明します(※ご存じの方は飛ばして下さい)

 

 

「解糖系」とは、グルコース(ブドウ糖)を分解して、ATP(身体で使えるエネルギー)を産生する化学反応のことです。

 

 

ブドウ糖(グルコース)は、細胞の「細胞質基質 さいぼうしつきしつ」に到着します。

 

 

 

細胞質基質の解糖系

 

 

 

 

ここで以下のような反応が起き、エネルギー物質「ATP」が2個作られます。これが「解糖系」です。

 

 

 

 

グルコース

 

 

(何段階か反応)

 

 

ピルビン酸

 

 

 

以下の記事で細かく説明しています。

 

解糖系について分かりやすく説明してみた

 

 

で、「ピルビン酸」まで分解された後どうなるかというと、2パターンあります。

 

 

  • ミトコンドリアでの代謝をせず、「乳酸」を発生させる。

 

  • ミトコンドリアのマトリックスの中に入って「クエン酸回路」という反応が起き、次にミトコンドリアの内膜に進み「電子伝達系」という反応で、さらに多くの「ATP」を産生する。

 

 

その流れを図にするとこんな感じです。

 

 

嫌気的解糖と好気的解糖

 

 

 

右に進んだ場合、ミトコンドリアのマトリックス内の「クエン酸回路」では、このような順番で反応していきます。この部分は後で「糖新生」の説明でも登場するので、覚えておいて下さい。

 

 

 

クエン酸回路(TCA回路)

 

 

 

この「クエン酸回路」の後、ミトコンドリアの内膜で「電子伝達系」という反応が起きるのですが、本記事の趣旨からそれるので今回は説明しません。

 

 

ちなみに、ミトコンドリアの「マトリックス」と「内膜」の場所が以下になります。

 

 

 

解糖系とクエン酸回路と電子伝達系

 

 

 

それでは、「解糖系」と「クエン酸回路」の流れを頭に入れたうえで、本記事の本題である「糖新生」について説明していきます。

 

 

この説明は簡略化しているので、詳しくは以下の記事を参考にして下さい。

 

 

エネルギー代謝について分かりやすく説明してみた

 

 

また、エネルギー代謝で産生される「ATP」に関してはこちらをどうぞ。

 

 

ATP(アデノシン三リン酸)について分かりやすく説明してみた

 

 

 

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糖新生の流れ

 

 

さて、冒頭で、糖新生とは「解糖系」の逆行であると言ったので、もう一度エネルギー代謝の「解糖系」の部分に注目します。

 

 

便宜上、「解糖系」を以下のように簡単に説明することが多いのですが、実はこれ、かなり省略しています。

 

 

 

グルコース

 

 

(何段階か反応)

 

 

ピルビン酸

 

 

 

(何段階か反応)・・・の部分を省略せずに全部書くとこうなります。

 

 

 

グルコースからピルビン酸の代謝

 

 

 

※④から⑤の部分が分かりにくいので説明します。

 

 

「フルクトース-1.6-リン酸」は、「グリセルアルデヒド-3-リン酸」と、「ジヒドロキシアセトンリン酸」という2つの物質に変化します(※この変化に使われる酵素は「アルドラーゼ」です)。

 

 

このうち「ジヒドロキシアセトンリン酸」は、そのままの状態では次の反応に進めないので、「グリセルアルデヒド-3-リン酸」になります(※この変化に使われる酵素は「ホスホトリオースイソメラーゼ」です)。

 

 

こうして「グリセルアルデヒド-3-リン酸」は次の反応へ進みます。

 

 

「糖新生」は解糖系の逆行ではあるのですが、実は、この矢印の逆向きにそのまま進むことはできません

 

 

というのも、このようになっているからです。

 

 

 

糖新生の不可逆的な所

 

 

 

 

 

 

 

 

⑩のピルビン酸から、①のグルコースに向かって遡りたいところですが、上の図を見てもらったら分かるように、逆に進めない所が3ヶ所あります。

 

 

⑩から⑨の道、④から③の道、②から①の道です。

 

 

 

 

⑩~⑨:「ピルビン酸」  →  「ホスホエノールピルビン酸」

 

④~③:「フルクトース-1,6-ビスリン酸」  → 「フルクトース-6-リン酸」

 

②~①:「グルコース-6-リン酸」  →  「グルコース」

 

 

 

でも大丈夫です。

 

 

この3ヶ所は、「行き道とは別の方法」で進みます。

 

 

というわけで、次からは、目的地である「グルコース」になるまでの「糖新生」の基本的な流れについて解説します。

 

 

くどいですが、「糖新生」が行なわれるのは、肝臓(と腎臓)です。

 

 

 

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「ピルビン酸」からクエン酸回路を経由して「ホスホエノールピルビン酸」へ

 

 

まず、最初の⑩→⑨の反応です。

 

 

 

ピルビン酸からホスホエノールピルビン酸

 

 

 

進もうにも、いきなりこの状態ですから、⑨の「ホスホエノールピルビン酸」に行く為に、少々遠回りをします。

 

 

どうするのかというと、「クエン酸回路」を経由させるのです。

 

 

 

ピルビン酸とピルビン酸カルボキシラーゼ

 

 

 

図を解説すると、

 

 

1:「ピルビン酸」はまずミトコンドリアの中に入ります。

 

 

2:「ピルビン酸」は、「オキサロ酢酸」に変換されます。この変換の為に使われる酵素は「ピルビン酸カルボキシラーゼ」です。

 

 

3:次に「オキサロ酢酸」は「リンゴ酸」に変換されます。この変換の為に使われる酵素は「リンゴ酸デヒドロゲナーゼ」です。

 

 

4:「リンゴ酸」はミトコンドリアの外に出ます。

 

 

「オキサロ酢酸」は、ミトコンドリアの膜を通過する事ができませんが、「リンゴ酸」はミトコンドリアの膜を通過する事ができます。

 

 

 

オキサロ酢酸からホスホエノールピルビン酸

 

 

 

5:ミトコンドリアから脱出した「リンゴ酸」は、細胞質基質で、再び「オキサロ酢酸」に戻ります。この反応に使われる酵素も「リンゴ酸デヒドロゲナーゼ」です。

 

 

6:そして「オキサロ酢酸」は、⑨の「ホスホエノールピルビン酸」へと変換されます。この反応に使われる酵素は、「ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ」です。

 

 

この⑩→⑨の変化が一番ややこしいです。

 

以降の反応からはもう少しシンプルになります。

 

 

⑨→⑩の「解糖系」の時は、「ピルビン酸キナーゼ」という酵素で反応が進みます。

 

 

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ホスホエノールピルビン酸からグルコースまでの反応

 

 

もう2か所「一方通行」の所がありますが、それ以外のところは「解糖系」の逆向きに反応していきます。

 

 

「ホスホエノールピルビン酸」以降の流れを順番に解説していきます。

 

 

まずは、⑨→⑧の反応です。

 

 

⑨ホスホエノールピルビン酸 → ⑧2-ホスホグリセリン酸

 

 

⑧2-ホスホグリセリン酸

 

 

⑨ホスホエノールピルビン酸

 

 

⑨→⑧に変える酵素は、「エノラーゼ(別名:ホスホピルビン酸ヒドラターゼ)」です

 

 

⑧→⑨の「解糖系」の時の酵素も同じ「エノラーゼ」です

 

 

次は⑧→⑦の反応です。

 

 

 

⑧2-ホスホグリセリン酸 → ⑦3-ホスホグリセリン酸

 

 

⑦3-ホスホグリセリン酸

 

 

⑧2-ホスホグリセリン酸

 

 

 

⑧→⑦に変える酵素は、ホスホグリセリン酸ムターゼです。

 

 

⑦→⑧の「解糖系」の時の酵素も同じ「ホスホグリセリン酸ムターゼ」です。

 

 

次は⑦→⑥の反応です。

 

 

⑦3-ホスホグリセリン酸 → ⑥1,3-ビスホスホグリセリン酸

 

 

⑥1,3-ビスホスホグリセリン酸

 

 

⑦3-ホスホグリセリン酸

 

 

 

⑦→⑥に変える酵素は「ホスホグリセリン酸キナーゼ」です。

 

 

⑥→⑦の「解糖系」の時の酵素も同じ「ホスホグリセリン酸キナーゼ」です。

 

 

次は⑥→⑤の反応です。

 

 

⑥1,3-ビスホスホグリセリン酸 → ⑤グリセルアルデヒド-3-リン酸

 

 

 

 

 

 

⑥→⑤に変える酵素は「グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ」です。

 

 

⑤→⑥の「解糖系」の時の酵素も同じ「グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ」です。

 

 

「グリセルアルデヒド-3-リン酸」 → 「ジヒドロキシアセトンリン酸」の酵素は、「解糖系」の時と同じ「ホスホトリオースイソメラーゼ」です。

 

 

次は⑤→④の反応です。

 

 

 

⑤グリセルアルデヒド-3-リン酸、ジヒドロキシアセトンリン酸 → ④フルクトース-1,6-ビスリン酸

 

 

 

 

 

⑤→④に変える酵素は「アルドラーゼ」です。

 

 

④→⑤の「解糖系」の時の酵素も同じ「アルドラーゼ」です。

 

 

次は④→③です。

 

 

 

④フルクトース-1,6-ビスリン酸 → ③フルクトース-6-リン酸

 

 

④→③は、2つ目の「一方通行」地点です。

 

 

しかし、⑩→⑨の時のように複雑ではなく、いたってシンプルです。

 

ここでは、行き(解糖系)とは違う酵素を使うことによってクリアします。

 

 

 

③フルクトース-6-リン酸

 

 

④フルクトース-1,6-ビスリン酸

 

 

 

③→④の「解糖系」の時は、「ホスホフルクトキナーゼ」という酵素で反応が起きますが、

 

④→③の「糖新生」の時は、「フルクトース-1.6-ビスホスファターゼ」という酵素で反応が起きます。

 

 

 

次は③→②の反応です。ここは、「解糖系」と「糖新生」の酵素が同じです。

 

 

 

③フルクトース-6-リン酸 → ②グルコース-6-リン酸

 

 

②グルコース-6-リン酸

 

 

③フルクトース-6-リン酸

 

 

③→②に変える酵素は、「グルコース-6-リン酸イソメラーゼ」です。

 

 

③→②の「解糖系」の時の酵素も同じ「グルコース-6-リン酸イソメラーゼ」です。

 

 

②→①は、最後の「一方通行」地点です。

 

 

 

②グルコース-6-リン酸 → ①グルコース

 

 

こちらもシンプルで、先ほどと同じように行き(解糖系)とは違う酵素を使ってクリアします。

 

 

 

①グルコース

 

 

②グルコース-6-リン酸

 

 

 

①→②の「解糖系」の時は、「ヘキソナーゼ」という酵素で反応が起きますが、

 

②→①の「糖新生」の時は、「グルコース-6-ホスファターゼ」という酵素で反応が起きます。

 

 

ちなみに、「糖新生」が行なわれる「肝臓」と「腎臓」は、この「グルコース-6-ホスファターゼ」の活性が強いです。

 

 

 

 

 

これで⑩の「ピルビン酸」から、目的の①の「グルコース」まで辿り着けたことになります。

 

 

ここまでの流れが頭に入ったところで、次は「糖新生」に使われる材料が、それぞれどのようにして合成されていくのか、材料別にお話します。

 

 

 

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糖新生の材料

 

 

wikipediaによると、糖新生の材料は、

 

 

『Wikipedia 糖新生』より引用

 

 

糖新生(とうしんせい、gluconeogenesis)とは、飢餓状態に陥った動物が、グルカゴンの分泌をシグナルとして、ピルビン酸、乳酸、糖原性アミノ酸、プロピオン酸、グリセロールなどの糖質以外の物質から、グルコースを生産する手段・経路である。

 

 

ピルビン酸、乳酸、糖原性アミノ酸、プロピオン酸、グリセロールなど・・・とあるので、材料は他にもたくさんあるのかもしれません。

 

 

ただし、メインとなるのはタンパク質を分解した「アミノ酸」です。食事から得られる場合はそれを使い、足りない場合は筋肉を分解して取り出します。

 

 

体内に蓄えられた中性脂肪から得られる「グリセロール」、そして、嫌気的解糖で生じた「乳酸」も糖新生の材料として有名です。

 

 

ここでは、この3つについて解説していきます。

 

 

  • アミノ酸(のうち糖原性アミノ酸)

 

  • グリセロール

 

  • 乳酸

 

 

 

これらの材料は、いずれも、血液中に放出された後、肝臓に運ばれて「糖新生」が行なわれます。

 

 

 

まず、「糖原性アミノ酸」から解説していきます。

 

 

 

糖原性アミノ酸を材料にグルコースを合成する

 

 

アミノ酸は全部で20種類あります。

 

その中で「グルコース(糖質)を合成することができるアミノ酸」が18種類あります。

 

これを「糖原性(とうげんせい)アミノ酸 」と呼びます。

 

その名前がこちらです。

 

 

  • アスパラギン

 

  • アスパラギン酸

 

  • アラニン

 

  • アルギニン

 

  • イソロイシン

 

  • グリシン

 

  • グルタミン

 

  • グルタミン酸

 

  • システイン

 

  • スレオニン(トレオニン)

 

  • セリン

 

  • チロシン

 

  • トリプトファン

 

  • バリン

 

  • ヒスチジン

 

  • フェニルアラニン

 

  • プロリン

 

  • メチオニン

 

 

これに「リシン」、「ロイシン」を加えると全部で20種類になります。

 

 

血流に乗って肝臓に到着した「糖原性アミノ酸」は、「ピルビン酸」、「α – ケトグルタル酸」、「スクシニルCoA」、「フマル酸」、「オキサロ酢酸」のつのうちのどれかに変化します。

 

 

そして、それぞれの地点からグルコースに向かって進みます。

 

 

 

糖原性アミノ酸を材料にした糖新生の経路

 

 

 

  • トリプトファン、アラニン、スレオニン、グリシン、セリン、システインの場合は、「ピルビン酸」から先ほど説明した流れで反応が進みます。

 

 

  • アルギニン、プロリン、ヒスチジン、グルタミン、グルタミン酸の場合は、「クエン酸回路」の「α-ケトグルタル酸」に合流し、「リンゴ酸」まで進み、ミトコンドリアの外に出て続きの反応が進みます。

 

 

  • メチオニン、イソロイシン、スレオニン、バリンの場合は、「クエン酸回路」の「スクニシルCoA」に合流し、「リンゴ酸」まで進み、ミトコンドリアの外に出て続きの反応が進みます。

 

 

私が持っている本ではスレオニンは「スクニシルCoA」に合流するとなっていますが、Wikipediaでは「ピルビン酸」となっています。

 

『Wikipedia 糖原性アミノ酸』

 

 

  • フェニルアラニン、チロシンの場合は、「クエン酸回路」の「フマル酸」に合流し、「リンゴ酸」まで進み、ミトコンドリアの外に出て続きの反応が進みます。

 

 

  • アスパラギン酸とアスパラギンの場合は、「クエン酸回路」の「オキサロ酢酸」になるので、「リンゴ酸」に進み、ミトコンドリアの外に出て続きの反応が進みます。

 

 

次は「グリセロール」について解説します。

 

 

 

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グリセロールを材料にグルコースを合成する

 

 

中性脂肪を分解すると、「脂肪酸」と「グリセロール」が生成されます。

 

このうち「糖新生」の材料にできるのは「グリセロール」です。「脂肪酸」は糖新生を行なう為のエネルギー源にはなりますが、糖新生の材料にはなりません。

 

 

 

 

 

 

さて、材料の「グリセロール(別名:グリセリン)」ですが、以下のような流れでグルコースが合成されます。

 

 

 

グリセロールを材料にした糖新生の経路

 

 

肝臓に運ばれた「グリセロール」は、まず「グリセロール-3-リン酸」に変化します。この変化に必要な酵素の名前は「グリセロールキナーゼ」です。

 

そして、「グリセロール-3-リン酸」から「ジヒドロキシアセトンリン酸」に変化した後は、最初に説明した流れでグルコースへと変わっていきます。

 

 

次は「乳酸」です。

 

 

 

 

 

 

乳酸を材料にグルコースを合成する

 

 

「乳酸」とは、「ピルビン酸」から生じた物質です。

 

 

 

「乳酸」は処理できる量であれば問題ないのですが、pH5程度の酸性物質なので、蓄積すると体質が酸性に傾くので、癌等の原因になります。

 

 

余命わずかの末期癌患者が退院できたのは病院での栄養療法のおかげだった!

 

 

「乳酸」は血液にのって肝臓に運ばれた後、「ピルビン酸」に変換されます。この変換に使われるのは「乳酸脱水素酵素」です。

 

 

 

「ピルビン酸」から先は同じ流れです。

 

 

 

乳酸を材料にした糖新生の経路

 

 

 

糖新生に使われるATP

 

脂肪酸のところで少しお話しましたが、糖新生を行なうためには、材料だけではなくエネルギーも必要です。

 

グルコース1分子を合成するために必要な「ATP(エネルギー物質)」の量は、どの地点からスタートするかによって変わってきます。

 

 

ピルビン酸から・・・6分子のATP

 

クエン酸回路から・・・4分子のATP

 

グリセロールから・・・2分子のATP

 

 

 

糖質制限をしているのに血糖値が高いのは、糖新生が原因かもしれませんへ続く

 

 

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