電子伝達系(呼吸鎖)について分かりやすく説明してみた①複合体Ⅰ~Ⅱ

 

「好気呼吸を行なう代謝」の最終段階の反応である「電子伝達系 でんしでんたつけい」の話になります。別名には、「呼吸鎖 こきゅうさ」や、今は教科書で使われなくなった「水素伝達系」があります。

 

 

「クエン酸回路」は、ミトコンドリアの「マトリックス」で反応が起きましたが、

 

 

「電子伝達系」の反応が行なわれる場所は、ミトコンドリアの「内膜」です。

 

 

「膜」は「リン脂質」という油成分でできています。

 

 

ミトコンドリアの外膜、内膜、膜間腔

 

 

「外膜」と「内膜」の間は、「膜間腔 まくかんくう」と言うのですが、ここも少し関係あります。

 

 

ちなみに、内膜のヒダ状のところは「クリステ」と言います。

 

 

では、内膜や膜間腔でどんなことが起こるのか・・・ですが、イメージとしてはこんな感じです。

 

 

 

①堤防で仕切った反対側(膜間腔)へ、ポンプで水を送る

 

 

②溜まった水が発電機のある通り道を通って元の場所(マトリックス)に向かって流れる

 

 

③発電機のタービンが回って発電する

 

 

 

②~③は「水力発電」と似ています。

 

 

そして、①では、特定の順番にそって電子が運ばれていくので、この反応のことを「電子伝達系」と呼ぶのです。

 

この「電子伝達系」では、馴染みのない物質がたくさん出てきます。なので、混乱することがないように、流れを説明する前に、物質の紹介をします。

 

 

 

 

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内膜に埋め込まれている複合体

 

 

まず、ミトコンドリアの内膜の構造についてお話します。

 

 

内膜には「タンパク質」が埋め込まれているのですが、それぞれⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴと番号がつけられています。

 

 

複合体Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ

 

 

これらは「膜タンパク質」と言って、それぞれ以下のような名前がついています。

 

 

  • 複合体Ⅰ・・・NADH:ユビキノンレクターゼ複合体

 

  • 複合体Ⅱ・・・コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体

 

  • 複合体Ⅲ・・・ユビキノール:シトクロムcレグターゼ複合体

 

  • 複合体Ⅳ・・・シトクロムcオキシターゼ複合体

 

  • 複合体Ⅴ・・・ATP合成酵素

 

 

 

複数のサブユニットからなる複雑な構造をしているので「複合体」と言われています。情報源によって「呼吸鎖複合体」とか、「酵素複合体」とか、「タンパク複合体」と表現されています。

 

 

このⅠ~Ⅳの「複合体」を、水素の持つ「電子(e-)」が移動していくわけです。

 

 

水素原子の陽子と電子

 

 

 

そして、一番最後の「複合体Ⅴ(ATP合成酵素)」は、分子サイズのモーターで、例えるなら水力発電のタービンです。ATPはこのモーターが回る時のエネルギーによって作られます。

 

そして、そのタービンを回すのが「水素イオン(H+)(陽子の事)」です。

 

 

「電子(e-)」と「水素イオン(H+)」という言葉がでてきたので、これについても簡単に説明します。

 

 

 

原子について

 

 

物質を分解していくと、「分子」になります。

 

その「分子」をさらに分解していくと、「原子」になります。

 

 

 

物質と分子と原子

 

 

水は分解していくと、「H2O」という「分子」になります。

 

水分子「H2O」を分解すると、水素(H)が2つ、酸素(O)が1つに分けられます。

 

その1つ1つが「原子」です。

 

以下が原子の構造です。「水素原子」と「ヘリウム」を例にします。

 

 

 

水素原子とヘリウム原子の構造

 

 

 

ここで、「電子(エレクトロン)」がでてきました。

 

原子の中心にあるのは、「陽子 (プロトン)」と「中性子 (ニュートロン)」です。そして、その周囲を衛星のように「電子」が回っているわけです。

 

 

ただし、「水素原子」は、「中性子」がない原子です。

 

 

「中性子」は電荷がゼロで、プラスでもマイナスでもない中性。

 

「陽子」はプラスで、「電子」がマイナスです。

 

 

日本人の感覚からすると、「陽」がプラスなら、マイナスは「陰」のはずですが、マイナスは「陰子」ではなく「電子」という名前がつけられています。先にマイナスの電子が発見されて、その後で「陽子」と「中性子」が発見されたから・・・という理由らしいですが、分かりにくいから名前を整備して欲しいですね。

 

 

ちなみに、「電子」の数と「陽子」の数は同じです。

 

 

  • 水素原子・・・電子1つ、陽子1つ

 

  • ヘリウム原子・・・電子2つ、陽子2つ

 

 

 

イオンとは

 

「原子」は電気的に中性です。

 

プラスの「陽子」と、マイナスの「電子」の数が同じだからです。

 

 

しかし、元々は電気的に中性でも、電子の数が変わって、マイナスかプラスの電荷をおびると、原子は「イオン」になります。

 

 

イオンには「陽イオン」と「陰イオン」があります。

 

 

 

陽イオン

 

 

 

陽イオン

 

 

元々は電気的に中性でも、何らかの原因で「電子(マイナス)」を失うとします。すると、「陽子(プラス)」の数が勝つので、原子は全体としてプラスの電気を帯びます。

 

これを「陽イオン」と言います。

 

 

「陽イオン」は、記号の右横に小さく「+」を書きます(※ちなみに、電子を2個失った場合は「2+」と書きます)

 

 

 

水素原子は、中性子がなく陽子(プロトン)が1つしかありません。従って、電子を失ってしまうと陽子だけになります。

 

その為「水素イオン(H+)」のことを「プロトン」と呼ぶことがあります。

 

 

 

陰イオン

 

 

「電子」は失うこともあれば、増えることもあります。

 

 

陰イオン

 

元々は電気的に中性でも、何らかの原因で「電子(マイナス)」を受け取るとします。すると、「電子(マイナス)」の数が勝つので、原子は全体としてマイナスの電気を帯びます。

 

これを「陰イオン」と言います。

 

 

「陰イオン」は、記号の右横に小さい「-」を書きます(※ちなみに、電子を2個受け取った場合は「2-」と書きます)

 

 

 

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「NADH」と「FADH2」

 

 

「電子伝達系」では、「酸化 さんか」と「還元 かんげん」という言葉が繰り返しでてくるので、意味を書いておきます。

 

 

酸化・・・水素を失う事、電子を失う事

 

還元・・・水素を得る事、電子を得る事

 

 

 

「解糖系」や「クエン酸回路」で生じた「NADH」や「FADH2」は、「電子伝達体」と言って、水素原子(の持つ電子)を預かって運ぶ働きがあります。

 

 

「NADH」と「FADH2」は還元型なので、水素(の持つ電子)を得た状態です。水素を得る前は、それぞれ、酸化型の「NAD+」、「FAD」でした。

 

 

NAD+とFADの酸化型と還元型

 

 

酸化型の「NAD+」は、2つの水素原子によって、還元型の「NADH(厳密には NADH + H+ のセット)」になり(分かりにくいので図にします)、

 

 

NAD+2H→NADH+H+

 

 

酸化型の「FAD」は、2つの水素原子によって、還元型の「FADH2」になります(※こちらは単純なので図にしません)

 

 

 

こうして「NADH」と「FADH2」の預かった水素は、「電子伝達系」でATPを合成する為に使われます。

 

 

電子伝達系では、「NADH」は「複合体Ⅰ」で、「FADH2」は「複合体Ⅱ」で利用されます。

 

 

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CoQとシトクロムC

 

 

「電子伝達系」では電子が「複合体」を移動していくわけですが、それ以外にも、電子の移動の「足場」となるものが存在します。

 

それが「CoQ」と、「シトクロムc」です。

 

 

CoQとシトクロムc

 

 

※ⅠとⅢの間には「Ⅱ」がありますが、分かりやすくする為にこの図では省略しました。

 

 

 

CoQ(ユビキノン)

 

 

「Q」と記したのは、「CoQ」です。「Co」は、「コエンザイム(補酵素)」と読みます。なので、「CoQ」は、「補酵素Q」です。

 

先ほど「内膜は油成分でできている」と言いましたが、「CoQ」は疎水性なので、膜の油の中を浮遊して動いています。

 

この「CoQ」は、「複合体Ⅰ → 複合体Ⅲ」「複合体Ⅱ → 複合体Ⅲ」と行き来し、電子を伝達します。

 

 

なお、「CoQ」には別名が多く、「補酵素Q」の他に、「コエンザイムQ10(キューテン)」、「ユビデカレノン」、「ビタミンQ」、「ユビキノン(UQ)」があります。

 

酸化型を「ユビキノン」、還元型を「ユビキノール」と言います。

 

なので、本記事では、「Q」を「ユビキノン」と言う事にします。

 

 

 

シトクロムC

 

 

「C」と記したのは、「シトクロムC(シトクロームC)」です。「Cyt c」等と表示されることもあります。

 

「シトクロムc」は、単独のタンパク質です。膜の中を泳いでいた「CoQ」と違って、水っぽい性質があり、内膜の膜間腔側に存在しています。

 

「シトクロームC」は、「複合体Ⅲ」から電子を受け取って、「複合体Ⅳ」に伝達します。

 

酸化型は「フェリシトクロムc」、還元型を「フェロシトクロムc」と言います。

 

 

なお、この他にも「シトクロム」という名前がついたものがいくつか出てくるので混乱しないようにして下さい。

 

 

一通り紹介が終わったので、ここから本題の「電子伝達系」についてお話します。

 

 

 

電子伝達系の流れ

 

 

まず、全体の流れを先に説明します。

 

 

「NADH」や「FADH2」が預かった水素(電子(e-)と水素イオン(H+))は、切り離されて、それぞれ別の使われ方をします。

 

 

「電子」の方は、膜に埋め込まれた複合体Ⅰ~Ⅳに向かってリレー(伝達)され、最後は水になります。

 

 

 

 

 

一方、「陽子(H+)」の方は、リレーで生じたエネルギーによってマトリックスから膜間腔へ移動します。

 

 

 

 

 

 

 

  • 電子(e-)   → Ⅰ~Ⅳを伝達

 

  • 陽子(H+) → 伝達する時のエネルギーで膜間腔へ

 

 

 

そして、膜間腔の「陽子(H+)」が、「複合体Ⅴ」を通ってマトリックスに移動する時のエネルギーで、ATPが合成されます。

 

 

 

 

 

 

シンプルに言うとこうなのですが、一つ一つを見ていくと細かくて面倒です。

 

 

まずは複合体Ⅰから説明します。

 

 

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①NADHデヒドロゲナーゼ複合体(複合体Ⅰ)とNADH

 

 

「複合体Ⅰ(NADHデヒドロゲナーゼ複合体)」を大雑把に図にするとこんな感じです。

 

 

複合体Ⅰ(NADHデヒドロゲナーゼ複合体)

 

 

この酵素の役割は、「NADH」を「NAD+」に還元し、「Q(ユビキノン)」を「QH2」に還元することです。そして、その時のエネルギーで「水素イオン(H+)」を膜間腔にくみ上げます。

 

流れはこうです。

 

 

「NADH」は、酵素である「複合体Ⅰ(NADHデヒドロゲナーゼ)」の中に入って、「FMN」に電子(e-)2つと、「H+」を渡します。

 

 

FMNの還元

 

 

「FMN(フラビンモノヌクレオチド)」とは、電子伝達系でNADHの電子を一番最初に受け取る「電子伝達体」です。ビタミンB2から合成される為、これが不足すると「FMN」も不足し、電子伝達系が上手く働かなくなります。

 

酸化型の「FMN」は、マトリックスから「H+」を1つとりこんで、還元型の「FMNH2」になります。

 

 

ここで注意です。実はこの過程にはいくつもの説があります。

 

 

例えば、「NADH」は複合体の中に入らずに、以下のように電子(e-)だけが複合体の中に入っていき、電子を「FMN」に渡す・・・とだけ説明しているものもあります。でも、この説だと、「じゃあどうやってH+を手に入れてFMNH2になるんだ」と言いたくなります。

 

 

FMNの還元

 

 

また、「NADHとH+が、「電子」と「H+」を2つずつFMNに渡す」という意見もありました。

 

 

情報源によって説明がバラバラで、私が説明したことも1つの説に過ぎません。私もどれが正解か分からないので、とりあえず辻褄が合うものを紹介していますが、信じていません。

 

 

従って、「電子が伝わっていく」という、どの情報にも共通している大まかな流れだけ頭に入れておいて下さい。

 

 

 

では話を先ほどの説に戻します。

 

 

電子を渡した「NADH」は、酸化型の「NAD+」となって、複合体Ⅰから出ます。

 

 

 

 

鉄硫黄クラスター

 

 

そして「FMNH2」は、電子(e-)を「Fe-S」に伝達します。

 

 

 

「Fe-S(鉄硫黄クラスター)」は、鉄と硫黄からなるクラスター(集合体)です。ここでは簡略化して描きましたが、「Fe-S」は7~8個存在していて、この間を電子が飛び移っていきます。

 

 

 

そして、電子は、「ユビキノン(Q)」にバトンタッチされます。ユビキノンは、電子2つを1つずつ受け取り、

 

 

 

ユビキノンの還元

 

 

 

さらに、マトリックスにある「H+」を2つ受け取って、「QH2」になります。分かりやすくするとこうです。

 

 

 

酸化型のユビキノンと還元型のユビキノール

 

 

 

そして、「QH2」は複合体Ⅰから離れて、複合体Ⅲに進みます。

 

 

さて、複合体Ⅰの中を電子が飛び移っていったわけですが、この時のエネルギーで、マトリックスにある「H+」が膜間腔にくみ上げられます。

 

 

 

プロトンポンプ

 

 

(NADH1分子の)2つの電子が移動すると、膜間腔に4つの「H+」が移動します。

 

 

「H+(プロトン)」をくみ上げるので、これを「プロトンポンプ」と言います。

 

 

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②コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体(複合体Ⅱ)とFADH2

 

 

 

「NADH」は、「複合体Ⅰ」で電子を渡しました。

 

 

一方、「FADH2」は、「複合体Ⅱ」で電子を渡します。

 

 

複合体Ⅱは、「コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体」という名前です。これは「クエン酸回路」でコハク酸をフマル酸へ変える時にでてきた酵素と同じものです。

 

クエン酸回路(TCA回路)について分かりやすく説明してみた

 

 

 

こちらの記事でも書きましたが、この酵素によって「コハク酸」が水素原子を2つ失って「フマル酸」になる時に、酸化型の「FAD」が、還元型の「FADH2」になりました。

 

 

今回の話は、その「FADH2」のその後です。

 

 

「複合体Ⅱ」も、人によって言う事が違うので曲者なのですが、とりあえず調べてポイントを整理した構造がこちらです。

 

 

 

複合体Ⅱ(コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体)

 

 

このように、4つのサブユニットから構成されていて、AとBが親水性。CとDが疎水性です。「Sdh」というのは、「succinate dehydrogenase(コハク酸デヒドロゲナーゼ)」のことです。

 

 

詳しく見ると、「Sdh A」に「FAD」が結合していて、「Sdh B」には「Fe-S(鉄硫黄クラスター)」が含まれています。

 

 

CとDは小難しくてよく分からないのですが、この2つの間に「ヘム」が結合し、「Q(ユビキノン)」が還元されるようです。

 

 

しかし、4つのサブユニットに分けて説明されている情報がほとんどなく、たまに見つけても小難しい言い回しばかりで理解に苦しみます。なので、今分かる範囲で簡潔に説明します。

 

 

まず、「コハク酸 → フマル酸」の過程を思い出して下さい。

 

 

 

コハク酸とFAD

 

 

 

「コハク酸」は水素2つを失って、「フマル酸」になります。

 

 

 

フマル酸とFADH2

 

 

 

「FAD」は、水素によって「FADH2」に還元されます。

 

 

すると、すぐに「Fe-S(鉄硫黄クラスター)」に電子を渡します。と同時に「H+」をマトリックスへ戻します。

 

 

 

鉄硫黄クラスター

 

 

 

こうして「FADH2」は、「FAD」になります。

 

 

「Fe-S」は厳密には3種類あって、これらを電子が1つずつ移動します。そして、「ユビキノン(Q)」が受け取ります。

 

 

と同時に、マトリックスの「H+」を2つ取り込み、「ユビキノン(Q)」は、「ユビキノール(QH2)」になります。

 

 

 

ユビキノンの還元

 

 

「ユビキノール」は、「複合体Ⅲ」へ向かいます。

 

 

ところで、「複合体Ⅰ」は、電子が伝達するエネルギーによって「H+」を膜間腔に移動させる機能がありました。しかし、「複合体Ⅱ」にはその機能がありません。

 

 

そのため、電子伝達系の説明で「複合体Ⅱ」は省略される事が多いのです。

 

 

ちなみに、この流れを、4つのサブユニットに分けて説明している説ではこのような図になっています。

 

複合体Ⅱ(コハク酸デヒドロゲナーゼ複合体)

 

 

 

 

③ユビキノール:シトクロムcレクターゼ複合体(複合体Ⅲ)

 

 

「複合体Ⅰ」と「複合体Ⅱ」から離れた「ユビキノール」が行き着く先が「複合体Ⅲ」です。

 

 

ユビキノールと複合体Ⅲ

 

 

ただ、話が長くなるので、ここで一旦切ります。

 

 

次回、電子伝達系(呼吸鎖)について分かりやすく説明してみた②複合体Ⅲ~Ⅴで「複合体Ⅲ」以降を説明していきます。

 

 

 

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